うつ病や適応障害などメンタル不調の方が、職場復帰の準備を行うための「リワーク」サービス。最近では会社から復帰の条件として、リワークへ通うことを提示されることも増えてきました。
しかし、うつ病からの回復を目指す中で、リワークへ通うことに意義を感じられない方もいるかもしれません。
この記事では、リワークのメリットとデメリットを振り返り、実際の利用者の声などを踏まえながら、リワークに通う意味はあるのかについて解説します。
目次
リワークに通う意味はある?
「リワーク」とは、「Re-Work(再び働く)」を意味しており、うつ病や適応障害などの精神面の不調から、ある程度まで回復したメンタルヘルス不調者を対象に、職場・社会復帰を目指すためのプログラムのことです。対人コミュニケーションやストレス対処法など、利用者の特性や体調に合わせた様々なプログラムが用意されています。
うつ病や適応障害など、メンタル不調からの回復を目指す中で、リワークへ通うことに意義を感じられない方もいるかもしれません。しかし、何もせずに職場復帰をすると、再発や再休職のリスクが高くなることをご存じでしょうか?
うつ病は一度回復してしまえば再発しないと思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、厚生労働省の報告によれば、うつ病から回復しても60%の人は再発すると言われています。さらに、2度罹患するとその後の再発率は70%、3度罹患するとその後の再発率は90%と、再発率が高くなっていくとされています。
つまり、うつ病にかかってしまった方は、2度目の再発を繰り返さないことが大変重要なのです。
この点を軽視してしまうと、「また同じことを繰り返してしまった」と自己嫌悪に陥ったり、さらに深い不調に苦しむ可能性が高まります。そのため、復帰に向けて計画的に準備を進めることが必要です。
リワークに通うことの最大の意義は、この再休職を防ぎ、仕事を長く続けられる状態を作ることにあります。実際にリワークを利用して復帰した人は、利用せずに復帰した人よりも就労継続率が高い(症状が再発しにくい)というデータもあります。
参考:厚生労働省 障害者対策総合研究事業「うつ病患者に対する復職支援体制の確立 うつ病患者に対する社会復帰プログラムに関する研究」
例えば、リワークサービス「リヴァトレ」では、プログラムを受けた利用者の約90%が復職後6か月の就労を継続できています。
このように、リワークを活用することで、単に復職するだけでなく再発を防ぎ、復職後も安定して働き続けられる確率を上げることができます。
スポーツ選手がケガをした際に「リハビリ」を行うのは自然なことです。同じようにメンタル不調からの回復にも「リハビリ」が必要です。リワークは、心の筋力を取り戻すためのリハビリの場と考えるとイメージしやすいのではないでしょうか。
リワークでは、職場復帰に必要な生活リズムを整えたり、ストレスへの対処法を学んだりします。また、職場に戻ることへの不安やプレッシャーを相談できる環境が整っています。リワークを利用し復帰に向けた準備期間を設けることで、復帰後の環境に適応しやすくなるのもリワークのメリットです。
また、リワークに通う意味はあるのかについて、早稲田メンタルクリニック院長の益田裕介先生をお招きしたこちらの動画でも解説しています。あわせてご覧ください。
リワークのメリット・デメリット
続いて、リワークを利用することによるメリットとデメリットをご紹介します。
リワークのメリット
1. 再発防止
前述のとおり、リワークの最大の意義は、再発や再休職を防ぐことです。リワークでストレス管理や適応力を高めるためのスキルを習得することで、再発のリスクを大きく減らすメリットが期待できます。
2. 段階的なストレス耐性の構築
復職に向けて、徐々にストレスを受ける環境に慣れることができます。この「段階的なストレス」が、休職状態から復帰後のストレスギャップを埋め、適応をスムーズにします。職場の再現的な環境でトレーニングを積むことで、復帰後のストレスを軽減できます。
3. 必要なスキルを学べる
リワークでは、ストレス対処法や疾病理解、ビジネススキルなど、社会復帰後に役立つ知識やスキルを習得できます。これにより、復帰後の仕事においても心身の健康を保ちやすくなります。
4. 孤独感の解消
同じ境遇の参加者と交流することで、孤独感が軽減され、心理的な安定が得られることも大きなメリットです。同じ経験を持つ人々とのつながりは、モチベーション維持にも役立ちます。
5. 復職後のサポート
多くのリワークでは、復職後もフォローアップ支援が行われます。復職後の悩みや不安を相談できる場があることで、安心して働き続けることができます。
リワークのデメリット
1. 費用がかかる
医療機関でのリワークは保険が適用される場合もありますが、民間のリワーク施設は利用料金がかかる場合があります。ただし、公的機関で実施されるリワーク(例:地域障害者職業センター)は無料で利用可能です。
ただ、就労移行支援などの福祉サービスでは、収入に応じた上限額が設定されているため、負担を抑えつつ利用することも可能です。
2. 復帰までの期間が延びる
リワークに参加することで復帰までの期間が長くなることがあります。しかし、準備不足のまま復帰して再発を繰り返してしまうリスクのことを考えると、この時間は「将来の安定就労のための投資」とも言えます。
リワークでは、症状を引き起こした根本原因となる考え方や行動を見直すことができ、長期的に安定して働くための基盤を築くことができます。
リワークに行きたくなかったけど…先輩利用者の声
リワークに通い始めるとき、実際に「これは本当に必要なの?」と感じられる方も多くいらっしゃいます。
「もう回復しているのに、なぜ復職できないのか」と焦りやイライラを抱えたり、早く元のキャリアに戻りたい一心で「時間の無駄だ」とリワークに否定的だったり、会社に言われて仕方なく通い始めていたり。人によって、事情は様々です。
しかし、プログラムを進める中で「職場復帰への準備が足りていなかった」と気づき、同じ悩みを持つ仲間との交流や、ストレス対処法を学ぶことで心が軽くなったと考えが変わる方が多くいらっしゃいます。「今ではリワークに通って本当に良かった」と笑顔で語る声も多いです。
実際にリワークサービス「リヴァトレ」を利用した方の声をご紹介します。
「リヴァトレ」を利用して
リヴァトレに通う前はもう二度と社会復帰出来ないのではないかと思う位に落ち込んでいましたが、リヴァトレに通いスモールステップを踏むことで前向きに社会復帰することが出来ました。 (30代 双極性障害)
仕事が人生で大切なことに変わりないが、趣味や人生を楽しむこと・仕事以外の部分が人生で占める割合が大きくて良い(大きくしないと人生ではない)と思えるようになった。端的に言うと、人生が楽しめそうな気がしてきた。 (40代 うつ病)
利用前は同様の疾病で悩んでいる方が多くいることを知識としては知っていても、実感がなかった。体調を崩した時も、周りの人に相談したり、励まされたりしたので、そういった状況の中で「悩んでいるのは自分一人ではない」と気づけたことが大きな収穫だった。 (30代 うつ病)
リヴァトレを利用して社会復帰された方の体験記もあわせてご覧ください。
リワークがしんどい…なかなか復職できないとき
リワークを始めたばかりの頃、多くの方が「こんなにしんどいなんて…」と感じるといいます。これは決して珍しいことではありません。メンタル不調の回復期は、体力や生活リズムが乱れている状態からスタートするため、最初は思うように進められないことも多いのです。
例えば、朝決まった時間に起きてリワークに通うこと自体が負担に感じられることもあります。また、体力が落ちていると、わずかな活動でも疲労感が強く出たり、「他の人に比べて自分は劣っているのではないか」と感じてしまうこともあるでしょう。
こうしたしんどさを乗り越える鍵は、「焦らず、少しずつ」です。最初は難しく感じても、通ううちに徐々に生活リズムが整い、心身がリワークに適応していきます。また、プログラムの中で実感できる「小さな成功体験」を積み重ねることで、前向きな気持ちを取り戻せる人が多いです。
最初は誰もが「しんどい」と思いますが、その先には回復を実感する日々が待っています。焦らず自分のペースで続けていきましょう。
復職できるかどうかの判断や会社から提示されやすい復帰条件については、こちらの記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
リワークの期間
リワークの利用期間は、利用者の状態や目指す復職の内容によって異なりますが、平均的には3か月から7か月程度とされています。短期間で復職を目指す方もいれば、1年以上かけてじっくり取り組む方もいます。
リワークサービス「リヴァトレ」では、3~7か月利用される方が最も多く、次いで多いのが9か月以上となっています。
もし平均期間より長く利用することになっても、リワークでは利用者ごとの背景に合わせた段階的な目標を設定することが多いため、「他の人より時間がかかっているのでは?」と心配する必要はありません。
リワークは「準備のための時間」と考え、自分に合ったペースで進むことが最も大切です。焦らずに、自分の目標に向けて取り組んでいきましょう。
リワークはいつ必要?利用開始のタイミング
リワークプログラムは、主にうつ病の回復期から復帰の直前期に利用を始めることが推奨されています。具体的には、「症状が重い時期を脱し、少しずつ気分や体調が安定してきた」と感じられるタイミングが適しています。
この時期は、まだ職場復帰には不安が残るものの、日常生活を整える意欲やエネルギーが少しずつ戻り始めている段階です。リワークを利用することで、無理なく復職準備を進めることが可能になります。
一方で、「もう少し早く始めれば良かった」という声もあります。回復の初期段階では「まだ休んでいた方が良いのでは」と思うこともありますが、早めにリワークを開始することで、生活リズムの回復や職場復帰への不安軽減がスムーズに進むことが期待できます。
リワークを利用するタイミングを見極めるのにおすすめのポイントはこの2点です。
- 「復帰について、そろそろ準備したい」と思えているかどうか
- リワークの利用について主治医が了承しているかどうか
疾病の症状が強く表れている時期は、療養に専念することが大切です。ある程度、症状が落ち着き、「復職や再就職に向けて準備を進めていこう」という気持ちが出てきて、主治医も賛成されていれば、リワークの利用を開始するタイミングかもしれません。
「体調や気分は落ち着いてきたけど、なかなか生活リズムが整わない」という方でも、「通所先がある」「予定がある」ということによりリズムが整っていくこともあります。
復職や再就職について考えると気分が落ち込んでしまう方や、朝起きられないといった方の場合、はじめのうちは「他人との会話や外出に慣れる」「生活リズムを整える」といった比較的易しい目標を設定して利用するのもおすすめです。
タイミングを見極めるためにも、主治医と相談しながら、自分に合ったスタートを切りましょう。
リワーク期間中のお金はどうする?支援制度の活用
リワーク利用中、休職時や離職時に使える経済的な支援制度について、簡単にご紹介します。
収入・生活費を補償するものや医療費を助成するものなど、さまざまな支援制度があるので、働き続けるのが難しい場合に備えて、事前に知っておけると安心です。
傷病手当金(健康保険法による)
健康保険、、各種共済組合などの被保険者が受け取ることができます。うつ病による休職の場合、まず有給休暇や病気休暇などの消化後に、傷病手当金を申請・受給するケースが多いようです。休職後に退職した際も、続けて受給できる場合もあります。
傷病手当金は、目安として就業時の給与の約3分の2程度の金額をもらうことができます。受給期間は、受給開始日から1年6か月が上限になります。
参照:病気やケガで会社を休んだとき(全国健康保険協会 Webサイトより)
自立支援医療制度
うつ病などで継続した通院が必要な際に、医療費の一部について支援を受けられる制度です。通常、医療保険による医療費の自己負担額は3割ですが、自立支援制度(精神通院)の併用により、原則1割まで軽減されます。
要するに「通院やお薬にかかる費用負担が1/3に抑えられる」ということです。
参照:自立支援医療(精神通院医療)について(東京都保健福祉局Webサイト)
障害年金
病気やケガによって生活や仕事などが困難になった際に、年金加入者が受け取ることができる年金です。病院で初めて医師に「うつ病」と診断された日(初診日)から1年6か月経過した方が、対象となっています。初診日に加入していた年金や、障害の度合い(障害等級)によって、受給できる障害年金の種類や金額が異なります。
- 障害基礎年金: 国民年金加入者。障害等級1級または2級に該当する方。
- 障害厚生年金: 厚生年金加入者・共済年金加入者。障害等級1級〜3級に該当する方。
申請にあたっては、一連の流れの説明や申請にあたってのアドバイスをいただける社会保険労務士事務所や各地域の年金事務(https://www.nenkin.go.jp/section/index.html)もあります。
失業等給付(雇用保険制度)
「失業保険」や「失業手当」などと呼ばれることもあります。離職中(就職活動中)に、国から受け取ることができるお金です。うつ病による離職時に関連する給付金として、以下の2つをご紹介します。
1. 基本手当
「就職の意思、能力があるが就職できない状態」で受給できます。受給要件として「離職日以前の2年間に、被保険者期間が12か月以上あること*」があります。
基本手当で支給される金額(在職中賃金の50~80%程度)や、給付を受けられる期間(90日~360日)は、年齢や雇用保険の加入年数、離職時の理由などによって異なります。
※倒産や解雇など会社都合での退職時は、この限りではありません。
2 . 傷病手当(雇用保険)
雇用保険の基本手当受給者がハローワークに求職申し込みをした後、「15日間以上疾病で就職ができない状態」で受給できる手当金です。受給にあたっては、上記の基本手当受給資格者である必要があります。
※この「傷病手当(雇用保険)」と、最初にご紹介した「傷病手当金(健康保険制度)」は全く別のものです。また、この2つを同時に受給することはできませんので、ご注意ください。
雇用保険には、これ以外にも様々な給付制度があります。詳しくは、管轄ハローワークにご相談ください。
参照:雇用保険制度の概要(ハローワークインターネットサービスより)
労働者災害補償保険
いわゆる「労災」です。うつ病になった原因が明らかに業務であると認められれば、給付を受けることができます。しかし、認定までにはかなりの時間がかかる上、認定されない可能性もあります。
請求手続きにあたってはまず、会社に労災保険給付等の請求書へ「うつ病の罹患の要因が業務にあること」の証明をしてもらい、労働基準監督署に申請することになります。
生活福祉資金貸付制度(社会福祉協議会)
低所得者世帯と障害者世帯、65歳以上の人が属する高齢者世帯を対象とした制度です。社会福祉協議会から「一時的な貸付」を受けることができます。貸付にあたっては、原則、連帯保証人が必要となります。
生活困窮者自立支援制度
暮らしや仕事に関して困っている人に、生活保護受給に至る前の段階で、個々の生活状況に応じた支援を行い、自立の促進を図ることを目的とした制度です。経済、就労、住居など、生活における幅広い分野での相談をすることができ、自立相談支援機関が作成した計画に沿った支援を受けられます。
参照: 生活困窮者自立支援制度では次のような支援を行います(厚生労働省Webサイト)
生活困窮者自立支援制度について(東京都保健福祉局webサイト)
生活保護
売却できる資産や生活できる預貯金などが無い等、資産や能力などのすべてを活用しても生活に困窮している人に対して、国が経済的な援助を行う制度です。「最後のセーフティネット」ともいわれており、制度を使うことに抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、生活保護は自立を助けるための制度です。まずは市区町村の窓口(生活保護課)に相談をしてみてください。
リワークではどんなことをするの?
東京都内4か所、仙台、大阪に拠点を構え、これまでに1,700名以上の方々の社会復帰をサポートしてきたリワークサービス「リヴァトレ」を例に、実際にリワークではどのようなことを行っているのかをご紹介します。
リヴァトレで行っているプログラム
集団認知行動療法(CBGT)
CBGTとは、グループで行う認知行動療法です。簡単に言うと、「ものの捉え方の幅を広げる練習」や「問題解決のための行動を見直す練習」を行います。
私たちは、同じ出来事でも「どう受け止めるか」で気持ちや行動が変わりますよね。例えば、冷蔵庫に少しだけお茶が残っているとき、「これしかない」とがっかりするか、「まだ少しある」と前向きに考えるかは人それぞれです。
CBGTでは「これだけしかない」と悲観する認知を見直し、「少しでもあってよかった」と捉え方の幅を広げる練習を行います。さらにこの「受け止め方」をグループで共有することで、新しい視点を一緒に探ります。ストレス軽減や適応力向上に役立つプログラムです。
アサーション
アサーションとは、「自分も相手も大切にする伝え方」をするコミュニケーションです。
つい言いたいことを我慢してしまったり、逆に強く言いすぎてしまったりすることはありませんか?アサーションプログラムでは、架空の場面を設定をしてロールプレイを行い、自分の気持ちを「私はこう感じている」と素直に伝える方法を学びます。
自分も相手のことも配慮した表現を身に付けることで、日々のストレス軽減や、職場での円滑なコミュニケーションに繋がります。
プログラムだけでないリヴァトレのメリット
リヴァトレでは、職場へ通勤するようにセンターへ通いながら復帰に向けたトレーニングを行います。規則正しい生活が身に付けられるため、生活リズムの改善にも役立ちます。
対人コミュニケーションやストレス対処法など、利用者の特性や体調に合わせた様々なプログラムが用意されています。一人一人に合わせた復帰プランとプログラムで、「自分らしい働き方」を見つめ直すことができるのも大きな特長です。
同じ悩みを持つ仲間と共感し合い、時には試行錯誤をしながら支え合うことで、自宅療養だけでは得られない孤独や不安の解消にも繋がります。
おわりに
復職や再就職を考えているけれど不安がある方に、リワークはとても心強いサポートになります。リワークでは、無理なく職場環境に慣れていけるよう、ストレスへの対処法や自分に合った働き方を学べます。同じような経験を持つ仲間と交流する中で、「一人じゃない」と感じられるのも大きな安心材料です。
最初は「本当に必要なの?」と思うかもしれませんが、続けるうちに「やってよかった」と思える方がほとんどです。時間や費用が気になるかもしれませんが、再発を防ぎ、長く働き続けられる未来のためには大切なステップだと言えるでしょう。
一人で抱え込まず、ぜひリワークを試してみてください。
まずは無料パンフレットをご覧ください
リヴァトレは、うつなどのメンタル不調でお悩みの方の復職・再就職をサポートするリワークサービスです。
復帰に向けて行う取り組みについて、無料パンフレットでわかりやすくご紹介しています。
まずはお気軽にお申込みください。
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株式会社リヴァ リヴァトレ事業部 生活支援員 臨床心理士/公認心理師
1985年東京都生まれ。
世田谷区の教育相談員→民間企業の治験コーディネーターを経て、2021年に株式会社リヴァに入社。
森田療法を基にした相談支援を行っている。趣味はコーヒーのハンドドリップ。