元リワーク勤務の公認心理師に聞きました!「集団認知行動療法(CBGT)」って何ですか?

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精神科のデイケアなどで用いられることの多い「集団認知行動療法(Cognitive Behavioral Group TherapyCBGT)」は、リヴァトレでも代表的なプログラムの一つとして活用され、多くの利用者さんが参加されています。さてこのプログラムはどのように実施され、どんな効果が期待できるものなのでしょうか?20213月までリヴァトレで活躍していた公認心理師・梅本育恵さんに聞きました。

梅本育恵(うめもと いくえ)

熊本県上天草市生まれ。臨床心理士、公認心理師。
小児科病院や精神科病院、クリニック、犯罪被害者支援センター、児童相談所、大学(学生相談)などで心理士として働いた後、リヴァトレの自由な雰囲気に惹かれ、2019年8月よりリヴァトレ高田馬場に勤務(2021年3月退職)。人と一緒に働くことが好きです。離れてもリヴァトレのこと、利用者さんたちのことを思っています!

そもそも「認知行動療法(CBT)」とは?

――集団認知行動療法について伺う前に、まず元になっている「認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)」について教えてください。

できるだけ多くの方にご理解いただきやすいよう、私なりに噛み砕いて説明させていただきますね。

認知行動療法はアーロン・ベック(Aaron Temkin Beck/1921年〜2021年)というアメリカの精神科医によって考案された心理療法の一つです。ベック先生はもともと精神分析を専門とされていたのですが、うつ病の患者さんを治療する方法として、認知行動療法を始めたそうです。

近年ではうつ病以外にも、不安症や摂食障害、強迫性障害、トラウマの症状の改善にも効果があるとして様々な疾患にも利用されていますし、健康な人がより健康になるためのウェルビーイングの向上や、子どもたちの学習意欲の向上などにも役立てられています。

――認知行動療法の「認知」とはどんなことを指すのですか?

「ある出来事をどう受け取るか、どう捉えるか」ということです。同じ出来事でも、それをどう受け止めるかによって、気分や行動、身体反応が変わってきますよね。そして、その認知の仕方には、その人がこれまで生きてくる中で経験して、学習してきたことが影響します。

生きるために必要なことを学習してきているのですから、それが役に立っていればその認知の仕方を継続していけばいいのです。ただ、子どもの頃から学習してきたことが、必ずしもいま生きる世界で役に立つとは限らないですよね。

身に付けたその認知の仕方が、その人を取り巻く様々な事情によって、何らかの症状を引き起こしたり、環境に適応しないようなものであったり、その人が望む生き方を実現するのに役に立たないものだったりすることがあります。

そこで認知行動療法では、まず「自分がどう認知しているのかな」っていうのを立ち止まってみていくのです。

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例えば、何か新しいことに挑戦する場面で、どんな考えが浮かびますか?

ある人は「自分の力を発揮するときだ」と考え、エネルギッシュになって張り切るかもしれない。また別の人は「きっと失敗する」って思ったり、人前で恥をかいているイメージが浮かんだりして、怖気づくかもしれません。

そういうときに、勝手に浮かんでくるイメージやセリフのような考えを「自動思考」というんですけれども、放っておくと、いつものパターンで気分や身体の変化が生じます。そして結果的に、先の場面でいうと「意気揚々と挑戦する」とか「心配で挑戦を諦める」といった、いつもの行動になっていきますよね。

自分の認知に気付いて、より目標(症状を軽減する/適応する/自分らしく行動する/〜のように生きたい)を達成するのに役に立つ認知、現実的な認知に自ら変えていく…というのが認知行動療法だと考えています。

――自動思考はどのように形成されるのでしょう?

その人が持っている気質と、幼少期からこれまでの経験を通して、その人の認知のくせのようなものが形成されます。それに基づいて、浮かんでくるのが自動思考です。
あくまで例ですが、感情の起伏が激しくて、突然叱るような親御さんに育てられた方の場合には「他人のちょっとした反応を、自分に対して怒っていると感じやすいという形で現れているのではないか」と仮説を立てたりします。
そうして学習し、身に付けた自動思考が学校や職場でも現れると、先生や上司のふとした態度にも過剰反応してしまうことになります。それらが積み重なると、メンタル不調の原因になる可能性もあるというわけです。

では「集団認知行動療法」とは?

――集団認知行動療法について教えてください。

認知行動療法が治療者と患者さんの1対1で行われるのに対し、集団認知行動療法は複数の患者さんが参加して行われます。進行役を務めるファシリテーター1名とサブファシリテーター1名がいて、参加する患者さんは5〜6名というのが一般的だと思います。
精神科のデイケアなどでもよく行われています。

――認知行動療法との主な違いは「人数」と考えてよいのでしょうか?

そうですね。その人数の違い、「療法を受けるのがご本人だけでない」ということが大きな違いを生むのです。

認知行動療法の場合は当然ながら自分の認知や行動について考えるわけですが、集団認知行動療法では“他の人の事例”を扱う時間が長くなるので、その日に自分の事例を扱わないこともあります。

――認知行動療法に比べて得るものが少なくなりそうな気もしますが…

決してそんなことはありませんし、私はむしろ他の人の事例について一緒に検討することで、多くのものが得られると考えています。

もし事例として扱われた他の人の思考が自分と違うものだったら、自分と他者の違いに気付けますよね。「自分だったらこの場面では悲しくなるけど、あの人は怒るんだ」みたいな。そういう自分とは違う捉え方があることを知っておくと、どんな場面でも自分の反応を“絶対のもの”と考えなくてよくなり、捉え方の選択肢が広がります。

例えば上司に怒られた場合、「自分なら『私はなんてダメなんだ…』って悲しくなるけど、こんなとき◯◯さんなら『いまに見てろ!』って闘志を燃やすかもしれないな」というふうに。つまり、他の人の考え方がお手本になったり、そこから新たな捉え方のヒントをもらえたりするわけです。

それに、自分のことだとすぐ悲観的になってしまう人も、他者のことであれば冷静に考えられたりするものです。そうして他の参加者の事例について考えたり、意見を述べたりしているうちに、自分のことについても新しい捉え方ができるようになる人もいます。

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――なるほど。では、リヴァトレで行われる認知行動療法について聞かせてください。

リヴァトレの集団認知行動療法には「ベーシック」と「アドバンス」があります。

「ベーシック」は1回2時間、全6回のプログラムです。まずは認知行動療法の基本的な考え方や、ワークで使用する「問題解決ワークシート」※1や「7つのコラム」※2、「4つの領域シート」※3の作成方法など、認知行動療法を自分自身で行えるようになるためのレクチャーを受けていただきます。そして日々の生活の中で受けるストレスについて、認知と行動に焦点を当てた事例検討を行います。

※1:問題解決ワークシート…困りごとやゴールを明確化し、小さく「行動」を起こしていくために活用するシート
※2:7つのコラム…気持ちが動揺した際の「状況」「気分」「自動思考」「根拠」「反証」「適応的思考」「心の変化」を記入するシート
※3:4つの領域シート…認知行動療法の基本モデルが学べるシート

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一方、「アドバンス」は「ベーシック」を終えた人が受けられるプログラムです。単発で実施され、何度でも参加することができます。参加者のうちのどなたかが実際に経験された事例を題材にして、みんなで事例検討を行います。

例えば「上司に挨拶したのに、挨拶が返ってこなくて悲しかった」というケースだとすると、それについて参加者が作成した7つのコラムを全員で読んでみて、「自分だったらどんな気分になるか」「自分だったらどう考えるか」という意見を出し合います。そして、さらにそれらの意見の根拠について、それぞれの考えを述べ合っていきます。

――「他の参加者の意見が聞ける」というのは、通常の認知行動療法にはないことですよね。

そうなんです。参加者は自分が悲しかったり、ショックを受けたりした事例を提示するわけですが、それについてみんなが一生懸命考えてくれる…このこと自体が「自分をこんなに思ってくれる人たちがいるんだ」「私はみんなとつながっているんだ」という気付きをくれるし、すごく癒されるのではないかと思います。

そして複数の人が「こんな言い方を人にするなんて許せない。相手に問題があるんじゃないか」とか「私だったらこう考える」という意見を述べるのを聞く中で、つい「自分が悪い」と責めていた人が、「自分が負う必要のない責任まで感じていたな」といった、新たな見方を発見することもあります。

医師やセラピストなど専門家からのアドバイスではなく、ふつうの利用者さんの意見だからこそ、真実味が感じられるということもあるでしょう。「一緒にがんばっている仲間が言ってくれるなら信じようかな」と思えたり。

こうした当事者同士のコミュニケーションから生まれる「グループダイナミクス」こそが、集団認知行動療法ならではのメリットだと思います。

――「アドバンス」はすべての利用者さんが受けるわけではないのですか?

はい、リヴァトレの利用期間は人それぞれで、2〜3か月くらいの短い方だと、「ベーシック」のプログラムを受け終えたところで卒業されてしまうことが多いです。
でも私としてはぜひ「アドバンス」まで受けて、効果を実感し、「自分で認知行動療法を使えるようになって、自分のセラピストになる」ということを達成して終了していただきたいと思います。そのためには半年くらいは利用することになりますけども。

――リヴァトレの認知行動療法の特長について、どのようにお考えですか?

例えば病院で行う場合、患者さんは集団認知行動療法を受けるために通院するわけですから、多くても週に1回しか顔を合わせる機会がありません。でもリヴァの場合は基本的に学校や会社のように毎日通うし、いろんなプログラムがあって、互いに接する機会がたくさんあります。
だから利用者さんもスタッフも“よそ行き”の顔だけを見せているわけにはいかず、良くも悪くも、互いに素の部分を見せ合うことになるんです。時に感情の行き違いのようなことがあっても、また何度も話して、関係を修復する機会がありますし。

そんな「安全な場所」だから、行動実験をするにはもってこいです。

――行動実験とは?

認知行動療法でも集団認知行動療法でも、大事なのは、気付いたことを実生活の中でどんどん実践していくことなのです。頭の中で考え方を修正するだけでなく、実際に行動に移して、経験して、現実の結果を見てみる…それが行動実験です。

水泳の本をいくら読んでも泳げるようにはならないけど、水の中に入ってたくさん練習をすれば、いつかは泳げるようになっていきますよね。それと一緒なんです。

もし職場で人に頼みごとをして断られたら、人はやっぱり傷つくでしょう。でもリヴァトレという互いをよく知っている安全な空間でなら安心して実験できるし、仮に断られてもまた関係を修復できるチャンスがある。

そんな行動実験を通じて「大丈夫なんだ」ということを“体”に教えるのがとても重要なのです。

うつ病などを患う方々へ

――退職されて数か月が経ちましたが、梅本さんにとってリヴァトレはどんな場でしたか?

すごく充実した時間を過ごさせていただいた、大切な場所ですね。

リヴァトレでは職業、年齢、そして抱えている病気やお悩みなどが、それぞれに異なる利用者さんたちが毎日、ご自身のよりよい生き方を求めて努力されています。…そんな皆さんと向き合いながら、私は常に自分自身の人間性を問われているような気がしていました。「どう考えるんですか」「どう生きるんですか」と。

そうした日々を通じて、心理士として最も大事な人格、人間性を鍛えていただいたと思っています。

だから、勤めていたリヴァトレ高田馬場の近くを通るときはいつも利用者さんやスタッフの皆さんのことを思い出しますし、恋しくなっちゃうんですよ(笑)。

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――メンタルヘルス不調を抱えている方々にメッセージを。

苦しい状況にいる時というのは、誰でも「もう治らないんじゃないか」「この暗闇のような状況が一生続くんじゃないか」という気になるものです。私はこれまでそうした状況にいる方とたくさん出会ってきました。

でも皆さん、良くなっていくんですよ、本当に。良くなる時期というのが必ず来るんです。私はいまそのことを、確信を持って言えます。
かつては私も、そんなふうには考えられませんでした。「本当に良くなるの?」「心理療法で人は変われるの?」と半信半疑だった時期もありました。だから、苦しみの最中にいる当事者の方が回復することを信じられない気持ちになるのももっともだと思うし、むしろそれが普通かもしれません。

でも、もしリワークなり、集団認知行動療法なり、自分に合いそうなものに出会えたら、ぜひ一度試してみてほしい。少し体験するだけでもいいから、どうかトライしてみてほしいんです。それが良くなるきっかけになる可能性は大いにありますから。

――梅本さんはいま公認心理師として、お勤め先でのお仕事の他に、個人としても活動しているそうですね。

トラウマセラピーインスティテュート こだま」というWebサイトで、Zoomを使用したオンラインカウンセリングを行っています。こちらでは認知行動療法やトラウマセラピーを受けていただけます。

また毎月最終月曜日には「死にたい気持ちを語る会」というものを開催しています。これは「生きることが辛いのが自分だけではなく、同じ思いを持つ人がいるんだということを感じられて、少しでも安心して語れる場所をつくりたい」という思いから始めました。

リワークやデイケアの利用が難しい方、それに匿名でカウンセリングを受けたいという方などもぜひ一度Webサイトをご覧いただければ幸いです。

――ありがとうございました。

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参考:うつ病などに効果的?『集団認知行動療法(CBGT)』の効果やデメリットなど

補足:リヴァで行っているサービスについて

リヴァでは「リヴァトレ」という職場復帰支援(リワーク)を行っており、職場へ通勤するようにセンターへ通いながら、よりよい復職・再就職を目指すトレーニングをすることができます。

主治医から復職の許可が下りても、すぐに職場に復帰したり、あるいは就職活動をするのは不安であったり難しく感じられる方もいるでしょう。体調が回復し今後の生活やキャリアについて考える余裕が生まれた段階で、一度相談してみるのはいかがでしょうか。

また、センターへは週2日から通所可能なので、完全に回復していない方でも少しずつトレーニングをすることができます。

特に以下の方にお勧めです。

  • 働くための生活リズムを整えたい方
  • 服薬と休養以外のストレス対処法を身に付けたい方
  • 職場で働く力の回復・向上を目指したい方
  • 働き方・生き方の再構築をしたい方

センターの無料見学・体験も可能です。また『よくある質問』についてもまとめておりますので、ご参考ください。
(参考:リヴァトレ よくあるご質問

まずは無料パンフレットをご覧ください

リヴァトレは、うつなどのメンタル不調でお悩みの方の復職・再就職をサポートするリワークサービスです。

復帰に向けて行う取り組みについて、無料パンフレットでわかりやすくご紹介しています。

まずはお気軽にお申込みください。

※実際の支援スタッフへのご相談、事業所のご見学はこちらから

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この記事を書いた人
野村 京平 株式会社あどアシスト コピーライター

1977年三重県生まれ。銀行→広告会社→うつ(リヴァトレ利用)→広告制作会社(現在)。消費者のためになった広告コンクール、新聞広告賞、宣伝会議賞等を受賞。一児の父。

Web:https://www.ad-assist.co.jp/

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