【体験談】「仕事が人生のすべて」だった私。2度の休職を経て、変われた理由とはー30代男性(うつ病・適応障害)

相墨慶輔（あいずみけいすけ）

・疾病名：うつ病／適応障害
・休職後に選んだ道：復職（一般枠／疾病未開示）
・仕事：郵便局の正社員（課長職）

「他人に認められたい」その思いが
自分を追い込み、2度の休職へ

私は20代のころから仕事中心の生活を送り、「同僚より早く昇進したい」「もっと認められたい」という思いが強くありました。ノルマの達成や納期を守ることにやりがいを感じる一方、「まだまだ努力が足りない」と自分を追い込むこともしばしば。

認めてもらうために頑張っても、なかなか評価されない。評価を気にするあまり、どんなに業務がいっぱいいっぱいでも自分で何とかしようとしてしまい、周囲に相談できずに抱え込む。そんな悪循環が続いていたように思います。

明らかな異変を感じたのは29歳のときでした。夜は眠れず、ようやく寝ても悪夢にうなされ、頭から仕事のことが離れなくなり、日中は何も手につかなくなってしまって。家族や職場の同僚に「明らかに無理をしているから、病院に行ってほしい」と言われ、しぶしぶ受診したところ、うつ病と適応障害の診断を受けました。

「自分はメンタルの病気になるわけがない」と強く思い込んでいたので、診断を受けたときは絶望しましたね。周囲は「ゆっくり休んでいいよ」と優しく受け止めてくれましたが、素直に受け取る余裕はなく、自分を責めてばかり。

休職することにも強い抵抗や焦りがあって、「休んでいる間に周りに置いていかれるんじゃないか」「会社や同僚に迷惑をかけてしまうのでは」と、不安を抱えながら休職期間を過ごしていました。

復職後、しばらくは仕事量を抑えていましたが、転勤や昇進が重なると「もっと成果を出さなくては」というプレッシャーに襲われます。「認められた」という喜びと同時に、再び自分を追い込む状態になり、35歳で2度目の休職を提案されたときは「やっぱりか…」と感じていました。実は数か月前から「またこうなるかも」と薄々感じながらも、ブレーキをかけられなかったんです。

休職中はショックが大きく、部屋を真っ暗にして布団にこもる日々が続きました。一番怖かったのは「社会から取り残されるのでは」という思い。みんなが普通に働いているのに、自分は何もできない。罪悪感に苛まれ、経済面だけでなく「普通の生活すらできない自分」を受け入れなければいけなかったのが苦しかったです。

「自分もこうなりたい」と思えた
リワーク施設での出会い

2回目の休職中に産業医から「リワーク」に通うことを勧められました。正直、「症状の重い方が簡易作業をする場所」という先入観があり、自分には必要ないと抵抗があったんです。でも、「休職を繰り返さないためにも利用した方がいい」と言われ、主治医が紹介してくれたリヴァトレを見学することにしました。

いざ足を運んでみると、リヴァトレの雰囲気はとても明るく、通所者のみなさんが目標を持って取り組んでいる姿を見て、「リワークのイメージと全然違う」と感じました。

体験の際に同じグループになった方が「私はこういうプログラムを受けて、こんな気づきがあって、こう変われました」とキラキラした目で語っているのを見て、「自分もこうなりたい」と思えたのもきっかけになりました。

ここなら再発リスクを減らし、確実に一歩踏み出せる。そう確信してリヴァトレを利用することを決めたんです。

自分を苦しめていた“理想像”
少しずつ和らぎ、芽生えた自信

リヴァトレには約4か月通所し、ほぼ全てのプログラムを受講しました。完璧主義な性格もあって、「せっかく立ち止まる機会をもらえたのだから、苦手なことにもとことん向き合いたい」という思いがあったんです。

最初は体力や生活リズムを回復させながら、「そもそも自分は何を望んでいるのか」「理想と現実のギャップはどこにあるのか」を見つめ直す自己分析のプログラムに力を入れました。

そうすることで、「理想に近づくためにどう行動するか」「必要に応じて理想を下げるにはどう考え方を変えるか」といった具体的な対策が立てられるようになり、自己理解が一気に進んだと感じています。

次に取り組んだのは、認知行動療法で学んだ考え方を実践することです。私は仕事で完璧を求めすぎるあまり、うまくいかないと強いストレスを感じることが多くて。認知行動療法の学習を通じて、まずは「何が問題になっているのか」をきちんと整理し、そのうえで「状況に合わせた考え方に少しずつズラしてみる」という発想を身につけました。

想定外のことが起きても、「こういう視点を持てばうまくいくかも」と考え方を切り替えられるようになり、実際にお客様や同僚から「その対応、助かったよ」と声をかけてもらえる機会が増え、認知行動療法を学んでいてよかったと実感しています。

苦手だったのは通所者同士が対話を行う「ダイアログ」というプログラムでした。相手を否定せず、結論を決めつけないで話を聞くというルールがとても苦痛で。でも、復帰してからダイアログのスキルが役に立っているんですよね。

いろいろな価値観の人が働く職場で、意見をまとめる前の段階として「まずはお互いの考えを尊重して聞くこと」は大切だし、「アイメッセージ（“私はこう思う”という伝え方）」を実践することができているので、自己主張を優先しがちなクセも和らいできたと実感しています。

最後の約1か月は、午前中は復職先でリハビリ勤務、午後はリヴァトレに通うという形を取りました。復帰後のフルタイムでの勤務を見据え、通所中から少しずつ負荷をかけて準備をしたり、復職後に想定されるハードルへの対策を練るプログラムに参加していました。

「これだけやりきった」という手ごたえは私の糧となり、復職が決まる頃には「何かあっても対処法がある」という自信が持てていました。学んだことや気づきをまとめた「リワークノート」は今でも職場の机に常備しています。残業が続くときや苦手な案件が控えているときは、まずノートに触れて「よし、やるぞ」と気持ちを切り替えているんです。

もちろん通所中はストレスを感じたり、マンネリ化して行きたくないなと思う日もありましたが、「仲間がいるから頑張ろう」という気持ちが支えになりました。一人で苦しんでいる時間が長かった分、同じ病気を抱える仲間との出会いを通じて、「自分だけが苦しんでいるわけじゃない」と思えたのはリヴァトレに通ってよかったことの一つです。

復職後に実感した価値観の変化
“感謝”や“楽しみ”が働くモチベーションに

復職にまったく迷いがなかったわけではありません。会社に迷惑かけていることが心苦しくて、産業医から復職可の判断が出なければ、退職しようと思っていました。結果として、復職が認められ、現在は元の職場で課長として働いています。

ブランクがあることで社員との距離を感じてしまうのが一番の懸念でしたが、「内線を使わず、極力相手のいる場所に足を運んで対面で話すこと」を心がけました。その結果、良好なコミュニケーションが取れるようになり、「ブランクを感じないね」と言ってもらえるほどに。通所中から対策を考えておいてよかったなと思いました。

仕事におけるモチベーションにも変化がありました。以前はノルマの達成や納期を守ることに喜びを感じていましたが、今は「誰かに感謝してもらえる瞬間」がやりがいに。お客様からの「ありがとう」や同僚からの「助かったよ」という一言が、私のモチベーションになっています。

また、プライベートも大切にするようになりました。かつては「仕事がすべて」という価値観でしたが、「人生は一度きりだから、健康で楽しく過ごしたい」と思うようになったんです。趣味は旅行で、部屋に日本地図を貼り、行った場所にマチ針をさすという「行ったところマップ」を作っています。まだまだ日本は広いなあと思いながら、少しずつ埋まっていくマップを見るのが楽しいですね。

今はもう、メンタル不調を経験したことを後ろめたく感じていません。もちろん再発を防ぐためには油断はできませんが、過去の経験を踏まえ、こうした発信をすることで「同じように悩んでいる人に少しでも勇気を与えたい」とも思うようになりました。

メンタル不調を抱えていても社会で働ける姿を発信することで、同じように悩む方に少しでも前を向くきっかけを届けられたら嬉しいです。