ストレス社会と言われる現代において、会社で働く従業員がメンタルヘルス不調を理由に休職することは珍しいことではなくなっています。
人事労務担当者の中には「会社としてルールがなく、場当たり的に進めてしまっている...」「適切な対応方法がわからず、いつかトラブルが発生しないか不安...」など、悩まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では人事労務担当者の方に向けて、メンタルヘルス不調による休職者の「休職から職場復帰」までの全体的な流れを解説し、どの段階でどのようなポイントを押さえて対応ができるとよいかについて解説していきます。
※本記事で参照している厚生労働省の「職場復帰の手引き」では、「休職」ではなく「休業」という用語が使用されています。多くの企業では、有給休暇や病気による欠勤を経てから正式に休職が発令されることが多く、休業している期間があっても必ずしも休職中ではない場合があります。そのため、手引きでは「休業」という表現が用いられていますが、本記事では用語を統一するために「休職」という言葉を使用しています。
目次
メンタルヘルス不調による休職者対応の流れ
人事労務担当者は休職者のスムーズな職場復帰を実現するためにも、「メンタルヘルス不調者の休職から職場復帰までの流れ」をしっかり把握しておくことが大事です。全体的な流れを掴んでおくことで、慌てず落ち着いて休職した従業員との対応を行うことができます。
また、この流れを社内関係者(本人、直属の上司、産業保健職、その他関係者)とも共有しておくことも重要です。社内に職場復帰に関する理解が広まり、復帰に向けたロードマップを描きやすくすることができます。
メンタルヘルス不調者の職場復帰までの流れは、厚生労働省が発行している「職場復帰支援の手引き」において、以下の図のようなステップに分けられています。
まずは全体的な流れを掴んだうえで、それぞれのステップで人事労務担当者はどのような対応を行えるとよいかを把握しておけると、安心して対応に専念できるでしょう。
ここからは厚生労働省発行の「職場復帰支援の手引き」を元に、各ステップでどのようなポイントを押さえて対応ができるとよいかについて解説していきます。
第1ステップ:病気休業開始および休業中のケア
<休職開始時の対応>
休職者が発生する場合、まず最初に人事労務担当者にコンタクトを取るのは、体調を崩した従業員自身(休職者本人)、またはその直属の上司など(報告者)であると想定されます。
下記の例のように、休職者本人の状態によっても相談内容と必要な対応が変わってくることが考えられますので、本人の置かれている状態をしっかりと把握しましょう。
例)
・直属の上司や同僚が体調を心配しているが、本人はまだ働けると思っている状態
・本人が心身の不調を自覚し、困っている状態
・本人が医療機関を受診している状態
・休職が必要である旨、主治医の診断書が発行されている状態
その上で、休職者のこれ以上の体調の悪化を防ぐためにも、早急に以下の流れで対応を進めていくことが重要です。
①本人の直属の上司と人事労務担当者が面談を実施
本人の直属の上司と早期にコンタクトを取り、「現在の本人の体調の様子」「いつから調子を崩しているか」「職場での不安や困りごととしてはどのようなものが起きているか」「今後についての本人からの希望はあるか」などを聞き取ります。
ただし本人が医療機関につながっていないような状態で、上司を経ずに人事担当者に直接接触してきた場合は、本人が上司には知られたくないという希望を持っている可能性があるため、本人とも確認の上、情報を共有する範囲に気を付けることが重要です。
②医療機関の受診や産業医への相談を促す
本人の体調の様子の確認や休職の必要性等について、医学的な判断を得るためにも、精神科や心療内科などの医療機関を受診してもらい、主治医の見解を確認するように求めましょう。また社内に産業医がいる場合は産業医面談の場をセッティングします。
すでに医療機関を受診済みの場合や、休職の診断書が出ている場合は、主治医の見解を確認します。
休職開始にあたって、会社の就業規則によっては主治医による医学的な判断のもと「診断書(病気休業診断書)」を必要としている場合があります。会社が休職を判断するにあたり、最終的な判断材料として主治医の診断書を提出することを就業規則に盛り込んでいる場合は、休職者と主治医で話し合ってもらい、診断書を作成して会社に提出してもらうようにします。
産業医には休職者の心身の状態を確認していただき、円滑な職場復帰に向けて休職者の直属の上司や事業主への助言などを行うようにしてもらいましょう。
③本人への必要な手続きの説明
休職する従業員に対して、人事労務担当者は休職に必要な事務手続きや職場復帰支援の手順等について説明をします。休職者が安心して休養に専念し、治療を進めることができるように、就業規則に基づいて次のような項目を本人に伝えます。
・休職可能な期間の長さ
・休職中の会社との連絡方法
・会社指定の休職届の様式の有無についての伝達
・休職中の給与支払いや社会保険料などの扱い
・復帰までの流れや条件
・復職支援プログラム(リワーク等)の案内
・傷病手当金などの支援制度の紹介 等
その他、社内規定や制限事項などがあればこの時点でお伝えできるとよいでしょう。
休職直前の期間は、休職者の症状が最も重い時期であると考えられます。あらかじめ会社として説明すべき内容は文書としてまとめておき、本人の体調が改善してからでも読み返せるようにするなど、負担をなるべく減らせるようにして必要な情報を伝えましょう。
<休職中のケア>
休職に入る際に、あらかじめ本人と定期連絡を行う約束をしておくことが必要になります。
定期連絡の頻度は「月1~2回の電話かメール」が基本です。あらかじめ連絡日を決めておき、必要に応じてオンライン上での面談を行ってもよいでしょう。
確認事項としては
・治療や通院の経過状況
・食事や睡眠など日常生活が送れているか
・不安や悩みがあるか 等となります。
報告をねぎらい、いろいろと質問しすぎず、やり取りは最小限に抑えるようにしましょう。
また、可能な限り一本化された連絡手段の案内(復帰後の円滑な支援に繋げるため、可能なら直属の上司に一本化)することが望ましいですが、休職者本人と上司の関係性から難しい場合等は、人事労務担当者や、より上位の管理職などが対応することも必要です。
<本人が回復してきたら>
本人の様子を確認し、職場復帰に向けた準備を進め始めることができる様子であれば、リワークの利用を提案するのもよいでしょう。
リワークとは「Re-Work(再び働く)」の意味で、うつ病などのメンタルヘルス不調からある程度回復した方が参加する、職場・社会復帰を目指すプログラムのことです。
リワークを活用することで、メンタルヘルス不調の再発防止に役立つストレス対処法やコミュニケーションのトレーニングを行うことができたり、また仕事を想定した生活リズムを整えていくことができます。
詳しくはこちらの記事をご参照ください。
第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断
休職者の状態がある程度回復し、本人から職場復帰の意思が伝えられたら、人事労務の担当者は本人と確認を取り合い、口頭でもよいので職場復帰に対する主治医の見解を確認してもらいます。主治医からは他にも本人の回復状態や、復職後の職場での対応について具体的な意見を確認し、人事労務担当者側でもその内容を把握するようにします。
また主治医は回復の判断について、「日常生活における病状の回復の程度」を元に判断する場合が多く、必ずしも「職場が求める業務を遂行できるまで回復している」水準を満たしているかどうかは限りません。
あらかじめ主治医とも会社や職場で必要とされるスキルや能力について情報を共有し、会社として求める復職基準について、共通認識を作っておけるとよいでしょう。さらに産業医との面談も設定し、休職者の業務遂行能力の回復度合いを確認しておくようにします。
メンタルヘルスの不調は状態が完全に安定するまでに長い期間を要しますので、一時的に良くなったからといって油断せず、十分な回復が認められた状態で復職してもらうのが基本です。本人にも復職を焦らせないように注意して対応していきます。
第3ステップ:職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
<復帰に向けた情報収集>
主治医から復帰可という判断が出たら、円滑な職場復帰の支援のため、実際に本人が復帰可能な状態かどうか、さらに情報収集を行います。
まずは以下のような情報を収集して、職場復帰の最終判断を進めていきましょう。
・休職者本人の職場復帰への意思(本人が十分な復帰意思を示しているかどうか)
・産業医と主治医の間での意見確認(産業医、主治医ともに復職可能の判断が一致しているか)
・休職者の回復状況や業務遂行能力などに関する情報(決まった勤務日や就労時間に、継続して働くことができるか)
・職場や業務との適合性、職場の支援準備など、職場環境に関する情報
・本人の考えている再発防止策とその根拠を聞き取り
実際に本人が職場復帰が可能かどうかを確かめるため、リワーク施設を利用している期間中に、会社での勤務時間帯と同じ時間で活動が出来ているかを確認するといった方法があります。
例えばリワーク施設で何時から何時までどういった活動を行い、リワークの終了時間後も図書館で何時まで過ごして活動したかなどを記録につけておいてもらい、それを会社側にも報告してもらうなどです。
<支援プランの作成>
主治医の見解が確認でき、本人の職場復帰に求められる能力が回復していると認められ、会社としても職場復帰が可能であると判断したら、復帰と定着を支援するため、従業員の置かれている状況ごとに「職場復帰を支援するための具体的なプラン(職場復帰支援プラン)を作成します。
プランの主な内容は以下のとおりです。
・職場に復帰する日
・現場における業務上の配慮事項(業務のサポートの必要性やその方法、業務内容や業務量、その他必要な配慮等)
・職場の配置転換や異動、勤務内容の変更が必要かなど
・産業医・主治医の医学的な見地からの意見(安全配慮義務に関する助言や職場復帰支援に関する意見等)
・フォローアップの方法(管理監督者や産業保健スタッフの職場復帰後の関わり方、社内での上司との1on1面談の調整等)
・使用できる外部リソースや内部制度等の利用について(例:リワーク施設の定着支援など復帰後のフォローアップサービス、医療機関等のカウンセリングルームの利用など)
本人と会社側の職場復帰イメージに相違があると、復帰後に受け入れ先の部署が疲弊したり、再休職に繋がるなどのリスクがあります。会社として「どの程度の回復状態での復職を求めるか?」「復帰後のフォロー体制」をあらかじめ明確にしつつ、本人と確認しながら復帰プランを立てていきましょう。
第4ステップ:最終的な職場復帰の決定
会社側が行う最終判断となりますが、職場復帰は休職者本人にとっても重要なものとなりますので、慎重に手続きを進めていきましょう。以下のような確認を踏まえて、具体的な復帰先の部署や業務内容、復帰日などを決めていくのがおすすめです。
・休職者の体調の最終確認(症状の再燃がないかどうか、安定した就業が維持できるかどうか等)
・産業医等による「職場復帰に関する意見書」の作成とその確認
・最終的な職場復帰の決定と、従業員本人への復帰の通知
・主治医への情報共有
会社や周囲に懸念がある状態での復職にならないよう、自社で定めた復帰基準に照らし合わせて、関係者同士が連携をして判断することが重要です。時間がかかっても、本人が持つ力を十分に発揮してもらえるように準備を整えることが、長期的に見て本人にも会社にも良い結果に繋がります。
またもし職場復帰にあたり、人事労務管理上の配慮の必要から、処遇の変更などを行う場合は、その内容について就業規則にあらかじめ定めておくなどルール化をしておくとともに、実際の変更は合理的な範囲とすること、さらに休職者本人とその必要性について十分な説明を行うことがトラブルの防止につながります。
第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ
職場復帰後は、職場において観察と支援を行うほか、社内の産業保健スタッフ等によるフォローアップを実施し、適宜職場復帰支援プランの見直しを行います。次のような観点からフォローを行っていきましょう。
・症状が再発、再燃していないか? または新しい問題が起きていないか?
・勤務状況の確認と、仕事をする能力の評価
・職場復帰支援プランの実施状況の確認と評価
・本人の治療状況の確認
・職場復帰支援プランの評価と見直し
・職場環境や、本人の上司・同僚への配慮 など
メンタルヘルス問題には、様々な要因が複雑に重なり合っていることが多く、復帰プランの作成には多くの不確定要素が含まれることが想定されます。そのため、職場復帰後の経過観察と、復帰プランの見直しは大変重要になってきます。
人事労務担当者や直属の上司は、休職者が職場復帰を果たしたら本人の勤務状況が安定するまで、業務時の様子を確認するなどして観察と支援を継続するようにします。
そして、気分や体調に変化が見られた場合は、すぐに上司に相談するように伝えてください。不調を感じても焦りなどから、無理してしまう可能性があるため、焦らずじっくり取り組むことも伝えておけるとよいでしょう。
休職者対応ルールづくりを進めていきましょう
ここまで、人事労務担当者に知っていただきたいメンタルヘルス不調による休職者との対応の流れと、各ステップごとのポイントを解説してきました。
メンタルヘルス不調者の職場復帰の手続きを進めるにあたっては、社内に明文化されたルールがないと本人や周囲の意見、その場の状況に流されてしまうリスクがあります。あらかじめ休職者対応のルールを明文化し、社内で共有しておくことが重要です。
本記事を参考にしていただき、適切な休職者対応の流れを掴んでいただければと思います。
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日本産業衛生学会指導医/日本産業医ストレス学会理事/合同会社活躍研究所代表
産業医、経営者として「メンタルヘルス不調になった従業員が当たり前に活躍する会社を作る」ことをモットーに、配慮中心ではなく、不調者の活躍を支援する活躍支援型メンタルヘルス対策を広げるために活動している。
■Webサイト https://kyri.co.jp/