朝ドラでも取り上げられるなど、近年注目が高まっている森林浴。仙台市内で2センターを運営するリワーク施設「リヴァトレ仙台」でも、代表的なプログラムの一つとして活用しており、多くの利用者さんが参加されています。そこで、2022年9月までリヴァトレの支援員として活躍していた、宮城県唯一の森林セラピスト(※)・及川結さんに、森林浴の魅力について伺いました。
※森林セラピスト…森林を訪れる利用者に応じて適切なプログラムを提供し、効果的なセラピー活動を指導する者
及川 結(おいかわ ゆい)
東京都出身。宮城県内唯一の森林セラピスト(2023年4月現在)。
大学受験のストレスで心身が消耗してしまった時、森の持つ癒やしの力を実感。
大学・大学院では森林科学を専攻。メンタルクリニックやリヴァトレ仙台での勤務を経て、独立。現在は合同会社杜の日の代表社員として「杜の都仙台の街と一人ひとりのライフスタイルを健幸で彩る」をビジョンに森林浴プログラムの提供・開発などを手掛けている。
目次
森林浴とは?
――そもそも森林浴とはどのようなものか、改めて教えてください。
森林浴は、自然の中で風景や香り、音、肌触りなどを五感で味わいながらゆったりと過ごすことで、心と身体の健康回復・維持・増進を図ることを目的としています。2000年代以降に医学・心理学的な研究が進められ、「気分の改善」「睡眠の改善」「自律神経系のバランスを整える」等の、さまざまな効果が実証されてきています。
森林浴に期待される実証効果やうつ病との関係性については、こちらの記事で説明していますので、詳しく知りたい方はぜひ見てみてください。
森林セラピストが考える森林浴の魅力
――及川さんが、森林浴に出会ったきっかけは?
高校3年生の時に進路に悩み、勉強にも身が入らず憂うつな1年間を過ごしていました。結局、試験本番も上手くいかずに浪人することが決まり、「私の人生はどうなってしまうんだろう」と絶望していた時があったんです。
家にいるだけだと気が沈むので、とりあえず外に出て家の近くの緑道を歩いたら、急に身体が温まってきた感覚があって…。お先真っ暗だと思っていたのに「自分は自分で良いんだな」と希望が見えた気がしました。
それをきっかけに、漠然と「この感覚を研究して社会に広めたら、良い社会になるのではないか」と考え、大学では森林浴に関連する分野の学問を学びました。
――なるほど。では、リヴァで森林浴を提供したいと考えたのはなぜですか?
元々、父が東京で精神科医をしており、そのクリニックを手伝っていた関係で、リヴァトレで農作業などのプログラムを実施していることを知っていました。結婚を機に、2016年に仙台へ引っ越して来てからは、病院で予約受付を中心とする仕事を担当していましたが、「この仕事はいずれAIに取って代わられるだろうな」と思うと悩ましく、徐々に対人支援の経験を積み「森林セラピストという資格を活かした仕事に繋げたい」と考えるようになっていたんです。
そんな時に、「仙台でセンター立ち上げます」というリヴァトレのFacebookの記事を見て応募したところ、とても前向きな返事をもらえました。
私自身、学生時代にうつ病を患い、キャリアに関する苦労や悩みが多かったので、リワークの必要性にも共感して、復職・再就職の支援をやってみたいと思いました。そして入社後には、「杜の都(もりのみやこ)」と呼ばれている仙台を盛り上げるため、森林浴のプログラムを提供したいという思いが強くなり、「森林浴プログラム」を立ち上げました。
――色んなタイミングが重なったのですね。では、森林セラピストとして森林浴を提供し続けている及川さんが考える「森林浴の魅力」は何でしょう。
私が思う一番の魅力は「森が自分を受け入れてくれて、希望を与えてくれること」です。自然ですので、同じ森を訪れても、同じ景色を見ることはありません。毎回違う景色だけど、1年経てば同じ花が咲いていてくれる。そんなところに安心感を感じます。
また、会社だと同僚、家だと家族との関係性がありますが、森に行くとそういったものから解放されて、「ただの一人の人間」、あるいは「自然の一部の存在」くらいな感覚になれる気がするんです。約束せずに気が向いた時に行って、何もしゃべらずに過ごせる所にも、すごく魅力を感じます。
――なるほど。どんな自分でも受け入れてくれるところに魅力を感じるのですね。ちなみに、森林浴はどの季節がお勧めですか?
森林浴は一年中楽しめますよ。春は、森全体が淡く優しい色合いで、可愛らしい花々が一斉に咲き出す風景に心が躍ります。夏は、濃い緑の香りと木陰の涼しい空気の中で過ごす気持ちよさが格別です。秋は、森が赤や黄に染まり、ハラハラと散る紅葉を見上げると、空に浮かぶ鱗雲が見えて、その美しさに胸を打たれます。冬は、枝の繊細さを見れますし、空気が冷んやりと澄んでいて、思考を切り替えるのにも最適です。ふと見上げてみると空が広く、心地良く感じますよ。
――それぞれの季節で違った楽しみ方ができるのですね。一年中楽しめる森林浴、及川さんはどんな方に勧めたいですか?
森林浴は、ストレスが溜まっている人ほど効果があるといわれています。心が疲れたときにふらっと森に行ってみると、「あ、自分考えすぎていたんだな」と客観的に見られることがあるので、「漠然とした不安があるけど、どうしたら良いか分からない」なんて感じている方は、とりあえず森に行ってみてほしいなと思います。
急に「この先大丈夫かもしれない」と感じることがあるかもしれません。森林浴を習慣化することで「ストレス対処力が上がる」「活力感が増す」という研究結果もあります。
――なるほど。ストレスが溜まっている人にお勧めなのですね。
そうですね。私自身もうつ病になったことがあり、その頃は漠然とした不安を抱えたり、ネガティブな出来事を繰り返し思い出して悩んだりしていたのですが、森に行ってのんびり過ごしてみることで、前向きな気持ちになった経験が何度もあります。
ネガティブな事を考えている時って、下を向いていたり、自分の中だけで考えすぎてしまったりして、視野が狭くなってしまうんですよね。そんな時に森に行って、大きく広がる森全体やゆったりとした大きな時間の流れに身を委ねると、さまざまな草や木や川など外に目を向けることができて、自分の悩みが小さくなっていく感覚が持てるんです。「なんだ大したことなかった」と呆気なく解決することもありますよ。
うつ病等を患う方々へ
――リヴァトレ在職時の業務について、改めて聞かせてください。
主に森林浴プログラムの開発と提供、それに広報関係の業務を担当していました。2022年9月末でリヴァを退職した後も、リヴァトレの森林浴プログラムには継続して携わっています。森林浴プログラムを実施し始めてから4年が経ちますが、他のスタッフにも協力してもらいながら、現在もブラッシュアップを繰り返しています。
――退職されてから1年が経とうとしていますが、及川さんにとってリヴァトレはどんな場所でしたか?
自分を成長させてくれて、自信を与えてくれた場所です。リヴァトレスタッフの皆さんにも自分の取り組みを応援してもらえたし、森林セラピストとしての取り組みが初めて仕事に繋がり、家族にも応援してもらえるようになりました。
森林浴プログラムに参加してくださった方からも「大事なものに気が付いた」とか、「毎週末森林浴をするようになった」と言ってもらえたり、雑談の中で話題にしてもらえたりすることも多くあり、自分のやってきたこと・やっていることは意味のあることだと思えるようになりました。皆さんには本当に感謝しています。
また、チャレンジの機会がたくさんあったことも自分の成長に繋がっています。私は行動する前からいろいろ考えてしまうタイプだったのですが、「まずはやってみよう」と思えるようになりました。「やってみたら思ったよりできた」という経験が多くあり、自信になりましたね。時には周りの人から無茶ぶりされることもありましたけど(笑)。
「やってみたら思ったよりできた」という成功体験を積み重ねたことが「新しい事にチャレンジしてみたい」という想いに繋がり、個人で活動を続ける中で役立っています。
――いろんな経験をされてきた及川さんから、メンタルヘルス不調を抱えている方々にメッセージをお願いします。
私がうつ病を患い、まだ森林浴を知らなかった時は、ずっと漠然とした不安がありました。もちろん森で全てが解決するわけではなく、他にもいろいろな対処法があると思います。ただ、私の場合は「もう駄目なんじゃないか…」と思った時に、森に行って希望を見出すことができたし、それがターニングポイントになりました。どん底にいた時に「森林セラピスト」になることを決めて、希望を持って歩んできた、それが今に繋がっています。
どんなに小さなことでも構いませんので、「これなら自分にできそう」と思うことを信じてやってみることで、前に進めることがあるかもしれません。まずは自分を信じてあげてください。
現在の活動について
――今は個人でどのような活動をされているんですか?
先ほどお話しした通り、リヴァトレの森林浴プログラムには今も継続して携わっています。また、「うつ病になる前に自然と予防できる社会をつくりたい」という想いがあるので、一般の方に向けて森林浴のご案内をしています。HPやInstagramでお知らせを流しているので、そこから申し込みをお願いします。
――朝ドラで森林浴が話題になったと思うのですが、森林浴の認知度が上がった後に及川さんの活動に影響はありましたか?
森林セラピストとしての活動を始めた頃は、森林セラピー自体の認知度が低い現状にありましたし、森林セラピストの資格を持っているのが宮城県で私一人なので、「何をやっている人なんだ」と、周りから怪しまれることもありました。そのため、今までは自分でイベントを主催するしかありませんでしたが、コロナの影響で森林浴の大切さが広まったり、朝ドラで森林浴が取り上げられたりしたこともあり、地域の方から受け入れてもらいやすくなりました。
地域の方や事業所の方から「この場所で森林浴をやってほしい」と依頼を受けることも増えてきたので、この春からは青葉山公園や作並温泉で森林浴のプログラムをスタートしました。他には、学生時代の専攻と支援員の経験を活かして、森林浴の効果に関する研究のプロジェクトの手伝いも始めています。
――怪しまれていたところから、依頼を受けるところまで変化したのはすごいですね。及川さん個人で主催している森林浴の参加者はどのような方が多いのですか?
「もともと自然が好きだったので行ってみたい」「癒やされたい」という方が多いです。「体調不良で休んでいたけど、少し元気が出てきたから来てみました」という方もいらっしゃいます。
――いろいろな目的で参加しても良いものなのですね。
そうですね。親子で参加したいというニーズもありますので、そのような方にも参加してもらえるよう、いろいろ企画もしていきたいと考えています。今後、「杜の都(もりのみやこ)」と呼ばれている仙台を、森林浴で健康な街にしていきたいですし、県外や海外から来た方にも森林浴や仙台の魅力を発信していきたいと思っています。
――素敵な目標ですね。ありがとうございました。
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復職・再就職コーディネーター/精神保健福祉士
1998年岩手県生まれ。東北福祉大学を卒業後、2021年に新卒社員としてリヴァへ入社。現在はリワーク支援施設「リヴァトレ仙台花京院」で、プログラム提供に携わる。自分らしく感じる瞬間は「道に迷っている時」。