うつ病等で休職・離職された方の仕事への復帰を支援しているリワーク施設リヴァトレでは、利用者さんからしばしば精神科の主治医とのコミュニケーションについて「何を話せばよいか分からない」「話すことを整理して伝えることが難しい」といった相談が寄せられています。
そこで3人の利用者さんに、患者さんの目線から「主治医との診察で困っていること」について座談会形式で話を伺い、意見を交換していただきました。
目次
・参加者プロフィール
・テーマ1:診察時間は?
・テーマ2:主治医との関係性は?
・テーマ3:伝えたいことを話せていますか?
・テーマ4:診察で悩んでいることは?
・テーマ5:話すときに気を付けていることは?
・テーマ6:主治医から掛けられたうれしい言葉は?
・テーマ7:転院の経験について
・おわりに
座談会:参加者プロフィール
① リヴァ利用歴 ②診断名 ③通院歴
Aさん(女性)① 2022年6月~ ②ADHD、ASD、双極性障害 ③2019年頃~
Bさん(男性) ① 2022年2月~ ②統合失調症 ③2010年1月~
Cさん(男性)① 2022年4月~ ②適応障害、遷延性抑うつ反応 ③2021年9月~
ファシリテーター:リヴァトレ高田馬場センタースタッフ・四谷(臨床心理士・公認心理師)
テーマ1:診察時間は?
四谷:今日はリヴァトレ利用者の3名に集まっていただきました。「主治医との診察で困っていること」をメインテーマに話し合っていきたいと思います。
一同:よろしくお願いします。
四谷:最初のテーマは「診察の時間」です。主治医の先生はいつも何分くらい診察時間をとってくれていますか? 診察待ちの時間についてもお聞かせください。
Aさん:私の場合、1回の診察にかかる時間は4~5分くらいです。体調を崩しているときは、1回15分くらいの時間を取っていただいています。診察を待つ時間はあまり長くなく、待っても5~10分くらいです。診察時間には満足していますが、ときどき「少し物足りないかな」と思うことがあります。
Bさん:私は5~10分くらいです。たまに職場の上司が同行することがあり、その時はもう少し長い時間を取っていただいています。診察時間は「少し短いな」という印象です。ただ、お忙しい先生なので「もっと長い時間を取ってほしい」とは言いにくいですね。待ち時間は30分くらいです。待ち時間に比べて、診察時間が短すぎるとは思いません。
Cさん:普段の診察は10分くらいです。通院初期の頃は15~20分くらい時間を取っていただいていました。先生は、私が話し始めたら止めずに聞いてくださり、話し終わるまで先生の方から診察を切り上げるということはありません。丁寧に聞いてくださる先生だと思います。その分、他の患者さんの話も丁寧に聞かれるようで、診察の開始時間が1時間くらい遅れることがあります。
テーマ2:主治医との関係性は?
四谷:次は今の主治医との関係性について、率直なお話を聞かせていただけたらと思います。Bさんは主治医との関係性についてはいかがでしょうか。
Bさん:関係性は良好だと思いますが、主治医が権威のある方なので、私は少し緊張してしまうことがありますね。
四谷:「権威がある」というのは、その方が有名な方であるとか、大学などで研究者として知られている方ということでしょうか。
Bさん:そうですね、有名な方だと聞いています。
四谷:なるほど。Cさんの主治医はよく話を聞いてくれる先生とのことですが、関係性はいかがですか?
Cさん:私の先生は「常に伴走者でいてくれるな」と感じています。年齢もお互いに50代と近く、偶然なのですが出身大学も同じなので共通の話ができ、関係性が近いなと思います。
四谷:Cさんは先生に親しみやすさを感じていらっしゃるんですね。Aさんはどうでしょうか。
Aさん:どちらかと言えば良好であると思います。先生ご自身も発達障害の特性を持っているそうでと聞いていて、私の話にも共感してくださいます。穏やかな方で、のんびりしたペースで話しやすいですね。ただ、時間が来ると診察を終わらせたそうな雰囲気が伝わってくることがあって、その時は残念な気持ちになります。
テーマ3:伝えたいことを話せていますか?
四谷:次のテーマは「自分の伝えたいことを納得いくまで伝えることができているか」です。診察の時に、「あの事を伝えきれなかった」であるとか、「先生に上手く伝わっているのかな」となることはありますか?
Aさん:数値で表すなら、伝えたいことの7割くらいは伝えられている印象です。事前に何を言うかを準備できているときは伝えられていると思いますが、準備できずにバタバタしてしまったときは「上手く伝えられたかな、大丈夫かな」と思ってしまいます。先生は最初からふわっとした質問をされるので、あまり具体的な質問をされません。自分からしっかり伝えにいかないといけないですね。
四谷:「事前準備」とは、具体的にどういう準備をなされていますか?
Aさん:普段から手帳を持っていて、気分や行動を記録しています。手帳を見返して「この時はこういう状況でした」と伝えられるようにしているんです。いざ病院に行くと、何があったか忘れがちなので、事前にチェックするようにしています。
四谷:なるほど、手帳に情報をまとめておいて、診察で話すという形ですね。
Aさん:伝えたいことを整理しておいて、その項目に沿って話すと、納得がいくまで伝えられると思います。
四谷:Bさんは先ほど「主治医が権威のある先生で緊張してしまう」とおっしゃっていましたが、伝えたいことを伝えることはできていますか?
Bさん:私もAさんと同じく、7割くらいは伝えられていると感じています。主治医からは「伝えることを3つくらいにまとめるようにしましょう」と言われていて、メモに書いて伝えるようにしています。3つというと必要最低限のことしか伝えられないので、プライベートの事などはあまり伝えられていません。
四谷:伝えたいことを3つにまとめる時、どういった手順で絞っていかれるのですか?
Bさん:私は毎日、1時間ごとに自分がしていたことを記録に残しています。調子が悪かった日も記録しているので、体調を崩した頻度や、リヴァトレを利用する計画などにテーマを絞って先生に話しています。
四谷:なるほど、日常的に付けられている記録の中から話すことをピックアップされているのですね。Cさんはいかがでしょうか。
Cさん:最近は体調も落ち着いているので、自分が伝えられていることは限られると思います。例えばリヴァトレに通っている様子などを話していますね。
体調の変動が大きかった頃はメモや手帳にその日何があったかを書いておき、診察前に確認するようにしていました。
四谷:Cさんのお話の中に「症状が変動している時」という言葉がありましたが、その時は症状をどのように記録しておられましたか?
Cさん:「眠さ」や「だるさ」など、その日その日でどういった体調だったかを手帳にざっくり記録していました。
テーマ4:診察で悩んでいることは?
四谷:次のテーマが今日の座談会の主題となります。主治医との診察について「具体的に悩んでいること、困っていること」について聞かせてください。
Bさん:そこまで大それた悩みではないのですが、主治医の考えが「復職する」という方向で固定されているように感じます。上司が同席するからかもしれません。自分としては「もしかしたら転職するという方向性もあるのかな」と思うのですが、なかなか話せません。
四谷:毎回の診察に上司が同席されているわけではないのですか?
Bさん:上司が同席するのは3か月に1回くらいです。それでも、主治医は復職という方向で進めようと考えているように思います。悪いことではないのですが、個人的にはモヤモヤした気持ちが残ります。
四谷:モヤモヤするというのは「主治医と復職以外の道についても話したい」という気持ちがあるからでしょうか?
Bさん:そうですね。最終的な目標が「再発を防止したうえでの復職または再就職」なので、復職だけが目指すところではないのですが、主治医にそのことをきちんと話すことができていないのです。
四谷:上司の方が診察に同行するようになった経緯は? 会社の方から指示されたのでしょうか。
Bさん:会社の規定で決まっていますね。休職中の職員に対する介入の制度です。
四谷:上司が通院同行される限りは、Bさんも転職を視野に入れていることはなかなか話しにくいかと思います。
上司の方がいない診察のタイミングで「復職以外にも自分の選択肢があるのでは」という考えを伝えることは可能ですか?
Bさん:実は上司が同席しない診察には、父が同席しているんです。父は「辞めたいときは辞めてもよ良い」と言っているのですが、転職についての気持ちははっきり伝えられていません。
四谷:主治医との関係性だけでなく、上司やお父さんがいらっしゃると、本心を伝えることがなかなか難しいですよね。
Bさん:私としては「主治医に自分の考えを知っていただきたい、伝えたい」という気持ちがありますね。
四谷:ではAさんはいかがでしょうか。
Aさん:先ほどもお話しした通り、7割くらいしか伝えられていない…つまり残りの3割は伝えられていないと思っています。いつも診察で話している内容は、自分の軽躁とうつの波についてです。主治医からは睡眠や食欲の事を聞かれます。
ですが、もうちょっと細かく自分の特性的な所でが原因で困っているところ、例えば「人間関係で困っていること」や「気分が落ちてしまったこと」などは全然話せていないなと思います。
四谷:特性ということについて、もう少し詳しく伺いたいのですが、どのような内容を伝えられるとよいと思いますか。
Aさん:自分の中で把握しきれていないところもありますが、こだわりが強くて納得しないと次のことに進めない頑固さのようなところがあります。
四谷:主治医に話せないことを、リワークの方で話すことはできますか?
Aさん:そうですね、病院はあまり相談する場所ではないのかなと思っています。Cさんの主治医のように話を聞いてくださったり、相談に載ってくださる先生もいらっしゃると思うのですが。
四谷:病院は「病気を診てもらうところ」というイメージがあり、症状の話をする方が多いのかもしれませんね。Cさんはいかがでしょうか。
Cさん:私は「主治医に伝えるべきことは伝えられている」と思っています。主治医も時間をかけて話を聞いてくださるので、診察が終わった後に何か心残りがあるといったことはないですね。
四谷:それは素晴らしいですね。過去までさかのぼっても、主治医との診察で困ったことは特になかったですか?
Cさん:そうですね。今のこの病気で主治医にかかっている間について特に困りごとはありませんでした。症状のことも相談できていますし、会社とのことやストレッサー(ストレスの原因となる刺激)のことも話すことができています。今、休職していることの背景については、余すことなく伝えられていると思います。
四谷:色々なことを話しやすい関係性が築けた理由について、ご自身ではどうお考えですか?
Cさん:受診したばかりの頃は、心療内科・精神科にかかるということが初めてだったので、「何を話すべきで、何を話しちゃいけないか」ということを分かっていませんでした。その中で、私には今こういう症状が出ていて、その背景にはこういったことがあるのではないかという自分なりの仮説を主治医に話すようにしてみたら、ちゃんと受け止めてくださいました。
テーマ5:話すときに気を付けていることは?
四谷:テーマ3でも皆さんが診察で工夫されていることについてお話を伺いましたが、他に何か工夫されていることがあればぜひ教えてください。
Bさん:私は主治医に「調子が悪い時の記録の付け方」を指導してもらっています。1番目に「いつ」、2番目に「どこで」、3番目に「何をしていたか」、4番目に「何を考えていたか」、5番目に「どんな気持ちだったか」を書くという方法です。
四谷:実際にその5項目で記録を付けられて、情報の整理の役に立っていますか?
Bさん:そうですね。診察では主治医からこの項目ごとに直接質問されることがあります。
Aさん:私は工夫していることが2つあります。1つはまず「症状を伝えること」。あんなことやこんなことがあって…と伝える前に、まず先に症状から話しています。2つ目は「簡潔に、客観的に情報を伝えること」。自分で思ったことと、客観的な情報を分けて伝えています。そうでないと、どんどん話が広がってしまうので。
Cさん:私は先ほど話したように、記録を見ながら話すことを絞って、その時に解決したいことを中心に話すよう、気を付けています。
テーマ6:主治医から掛けられたうれしい言葉は?
四谷:次のテーマは、「主治医や医療関係者から掛けられた言葉で、うれしかったこと」です。皆さんのエピソードをお聞かせください。
Bさん:具体的な文言はちょっと忘れてしまったんですけど、私が診察の中で話した出来事を、先生が笑いに変えてくださったことがあります。自分の妄想症状に関することだったと思います。
四谷:なるほど、深刻に受け止めすぎず、むしろ和らげてくださったのですね。Aさんは?
Aさん:私が状況を説明した後に、「状況を冷静に伝えられるくらいに良くなりましたね」と言ってくださったことが印象的でした。その時、本当に大変なことがあって、気分も落ちていた時だったので、そういう言葉をかけてくださったことで「理解してくれた、共感してくれた」と感じてうれしかったです。
また、いつも「よく頑張ってますよね」と言ってくださるんですが、それもありがたいです。私は“頑張り癖”があるので、そういった言葉をかけてもらえるとむしろ上手く力を抜ける気がします。
Cさん:私はシンプルに「絶対に戻りましょうね」と言われたのがうれしかったですね。苦しい時には「果たして仕事に戻れるんだろうか」という気持ちになってしまっていたのですが、主治医にそういわれてすごく支えになりました。
テーマ7:転院の経験について
四谷:皆さんの中で治療期間中に病院を変えられた経験のある方はいらっしゃいますか? もし変えられたとすれば、どういった理由ですか?
Bさん:私の場合はいろいろな検査ができるということで、小さい病院から大きな病院に通院先を変えたことがあります。その時、以前の病院では「他院への紹介状は忙しくて書けないよ」と言われました。
四谷:なるほど、検査が充実している医療機関であれば、治療方針を決めることにも効果がありそうですね。紹介状が書けないと言われたそうですが、精神科の先生方は日々の診療で多忙な様子が伺われます。
最後に、皆さんから今後主治医や関わる先生に対して期待すること、こうあって欲しいなということがあれば一言いただけますか。
Cさん:今不満がないのは、主治医が患者さんに寄り添って話を聞いて、専門的なアドバイスをくださるからなので、そのようにしていただけると良いのかなと思います。
Bさん:主治医は研究活動もされている先生で、私もその研究に被験者として参加しているんです。患者も医師の医療研究に参加できるといいのかなと思っています。
四谷:主治医の医学研究に参加できると、より関係性が深まっていきそうですね。Aさんはいかがですか。
Aさん:もっと主治医から福祉サービスの情報を教えてほしいなと感じます。診察では自分から「こういうサービスを使いたいんですけど」と問い合わせないといけませんでした。先生から情報提供をいただけると助かります。
四谷:皆さん、今日は大変貴重なお話を聞くことができました。ありがとうございました。
おわりに
今回の座談会では、リヴァトレの利用者から希望者を募り、「主治医との診察で困っていること」について話し合いました。参加者ごとに主治医との関係性や距離感が異なり、診察時の話しやすさについても全く違った印象を持っておられることが分かりました。また診察では、あらかじめ手帳などにまとめたことを話しているなど、皆さん工夫されている様子が伝わってきました。
今回の座談会で話し合われたことが、主治医との診察で困っている方々達の問題解決のヒントになれば幸いです。
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生活支援員 臨床心理士/公認心理師
1985年東京都生まれ。
世田谷区の教育相談員→民間企業の治験コーディネーターを経て、2021年に株式会社リヴァに入社。
森田療法を基にした相談支援を行っている。趣味はコーヒーのハンドドリップ。