回り道の先に見つけた、私の居場所【イキカタログ ~自分らしい生き方対談~ vol.9 ゲストハウス「ひととき」オーナー・佐々木祐子さん】

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面積のおよそ86%が森林という、雄大な自然に抱かれた福島県西会津町。新潟県との県境にあるこの町の人口は約6,100人で、高齢化率は県内トップ5に入ります。この地で「もっと気軽に、福島へ遊びに来てもらえる場所をつくりたい」と、ゲストハウスを立ち上げたのが、佐々木祐子さん(写真左)。幼少期から「何者かにならねば」と焦りを感じていた彼女が、等身大の自分を受け入れ、山あいの町で出会いの“ひととき”を提供するまでの道のりとは。中学校時代の同級生である、リヴァトレのスタッフ・馬場(同右)が話を聞きました。

プロフィール

佐々木 祐子(ささき ゆうこ)

1987年福島県郡山市生まれ。大学進学を機に­上京し、都内の出版社や翻訳会社で働くも、東日本大震災をきっかけに故郷の福島へUターン。南相馬市での小中学生の人材育成事業のコーディネーターを経て、2017年に夫婦で西会津町に移住。地域おこし協力隊の活動のかたわらゲストハウスを開業し、翌年にはカフェバーを増設。最近ではテントサウナの魅力にはまり、豪雪地帯の西会津町の新たなアクティビティとしてテントサウナイベントを企画するなど観光資源としての活用を模索している。

※2020年9月現在、新型コロナウイルスの影響により、ゲストハウスの営業日が変更となっています。最新の新規予約の受け入れ状況についてはこちら

西会津町の未来を見据えて
世代や地域を超えた交流の場を提供

馬場:久しぶり!やっと祐子ちゃんのゲストハウスへ遊びに来れて嬉しいよ。

佐々木:ようこそ西会津へ!東京からは遠かったでしょう。いつも応援してくれて、ありがとう。

馬場SNSを通じて、祐子ちゃんの新しいチャレンジを知るたびに感心するばかりで。今日は祐子ちゃんの生き方についてじっくり聞かせてください。改めて、いまのお仕事について教えてもらえますか?

佐々木:「気軽に福島へ遊びに来られる場所をつくりたい」という思いから、20185月に「ゲストハウスひととき」をオープンしました。翌年からは併設したカフェバーの運営も行っています。他にも、冬はフィンランド式のテントサウナを体験するイベントを企画していて。サウナの後に雪に飛び込むんだけれど、本当に気持ちが良いの!西会津町の冬を楽しむ新たな観光資源になったらいいなと思っています。

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馬場:面白そう!豪雪地帯ならではの取り組みだね。「ひととき」を利用しているのは、どんな人たちなの?

佐々木:オープン当初は知り合いが宿泊することが多かったけれど、最近はHPSNS、他のゲストハウスからの紹介といった経路で、県外や海外から来る新規のお客さんも増えてきている。ありがたいことにリピーターも多くて、親子連れのお客さんのお子さんの成長を見れることも楽しみの一つなんだよね。

馬場:なるほど。私は実際に宿泊してみて、地元のお客さんが多いことに驚いたよ。さっきも一緒に宿泊した隣町の女の子たちと、お話しながら食事ができて楽しかった。

佐々木:そうそう、地域の人と交流しながら宿泊できるのも「ひととき」の特長なんだよね。あとは、カフェを始めたことで、地元の子どもたちも遊びに来てくれるようになったんだ。

馬場:子どもたちがお客さんと交流することもあるの?

佐々木:うん、一緒にバーベキューをしたこともあるし、将来アルバイトをしたいって言ってくれる子もいる()。特に地方では、色んな大人と交流できる機会って貴重だと思うの。これからの地域を担う子どもたちが「ひととき」での出会いを通じて新たな価値観に触れたり、生き方の選択肢が広がったりしたら嬉しいなと思っているよ。

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比べられることを恐れ、
探し続けた「自分の居場所」

馬場:祐子ちゃんの価値観や考え方がどうやって形成されてきたのか、すごく気になるんだけど。幼少期はどんなふうに過ごしていたの?

佐々木:カトリックの小学校に通っていて、授業で触れる機会の多かった世界情勢や社会問題に関心が強かった。よく読んでいた伝記の影響で偉人たちに憧れて、「私も行動を起こせば、誰かを救えるんじゃないか」って、本気で思っていたの。

馬場:おお、すごい志だね。

佐々木:志って意味では、もう一つ原体験があって、中学2年生の時に地元の青年会議所の記念事業の一環でタイの孤児院を訪ねたんだよね。そこで暮らす人たちって、経済的には貧しいんだけれど、私より生きる力に溢れているって感じたの。そこから、いわゆる「普通」や「幸せ」のあり方に疑問を持つようになって。当時は英語が得意だったから「将来は国連で働きたい」と思って、受験勉強を頑張ったんだ。

馬場:学生生活はどうだった?

佐々木:高校は公立の進学校に行ったんだけれど、いわゆる世間一般のレールに乗ってしまったと後から気づいてショックだった。生徒も先生も、何の疑いもなく「有名な国立大学に行くことこそが素晴らしい」と考えるような雰囲気だったし、友達との会話は、部活や恋愛の話ばかり。楽しい時間もあったけれど、本音で将来について語り合える人がいなくて、ずっと物足りなさを感じていたの。

馬場:大学生活は?

佐々木:大学に進学してからも海外で働く夢は持ち続けていたんだけれど、1年生の後半に家庭の事情が変わって、お金の心配をしないといけない状況になったの。それで、夢を追いかける気持ちの余裕が無くなってしまったんだよね。

馬場:ちょうどあの頃はリーマンショックの影響で就職氷河期だったし、不安だったでしょう。

佐々木:そうだね。結局、就職活動では人気が高くて、安定したお給料がもらえる有名企業ばかりを受けたよ。

馬場:そのまま、そういう企業に就職することになったの?

佐々木:ううん、いざ酒造メーカーの内定式に出てみたら、「ずっと嫌がっていた世間一般のレールにまた乗ってしまった」と、ハッとして。「引き返すならいましかない」と内定を辞退して、就職活動をやり直したんだ。

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馬場:勇気ある決断だね。最終的に、どんな会社に入ったの?

佐々木:企業のCSR活動《※1》をコーディネートする会社に就職したんだ。主な仕事は、子ども向けの教育イベントの企画や、関連するパンフレットの制作。3人しかいない小さな会社で、1人ひとりの裁量の範囲が大きくてやりがいがあったし、何より、その時の上司がとても魅力的な人だったの。

※1:CSR:「corporate social responsibility」の略称。企業が社会を構成する一員として社会的な影響に責任を持ち、世の中をよりよくするための取り組み。

 

馬場:その人はどんな人だったの?

佐々木:一言でいうと、クリエイティブな人。音楽制作をしていたり、歌舞伎やバレエの鑑賞を勧めてくれたり、自分の知らない分野に造詣が深くて、刺激をもらえた。私は中学生で図録をねだるくらい芸術やアートに興味があったから、価値観が近くて、一緒に仕事をしていて面白かったんだ。でも、入社した次の年に起きた東日本大震災の影響で業績が悪化して、会社都合で退職することになったの。

馬場:それは大変だったね・・・。その後、お仕事は?

佐々木:都内の印刷会社、編集会社、翻訳会社…と、12年単位で転々と。どうしても充実していた1社目の会社と比較をしてしまって、裁量が小さかったり、価値観の近い人がいなかったりして、つまらなく感じてしまって。ただ、いま改めて振り返ると、誰かと比べられるのが怖いから、人との関わりを避けるように「私の居場所はここじゃない」って思うようにしていたんだと思う。

馬場:どうして比べられることが怖かったの?

佐々木:小さい頃に抱いた「私も行動を起こせば、誰かを救えるんじゃないか」という考えから、自分に対して「何者かになれる」という期待を持っていたんだよね。だからこそ、人と比較されて「大した人間ではない」と思われることが一番怖かった。昔からそんな気持ちを抱いていたから、一匹狼でいることが多かったように思う。

コンプレックスから抜け出し
生き方のロールモデルに出会う

馬場:その後、祐子ちゃんが組織に属さない働き方に踏み出せたのはどうして?

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佐々木:きっかけは、東京で暮らすなかで、自由大学という場所に出会えたこと。東日本大震災の直後、同世代の子たちはボランティアに行ったり、支援団体を立ち上げたりしているのに、私は漠然とした怖さから何も行動できなかった。だから、せめて自分が置かれた環境で何かできないかと、当時勤めていた印刷会社の人間関係を改善するために色々企画をしたんだけど、上手くいかなくて。それで、社内の環境改善に向けたヒントを得ようと、自由大学の講義に通い始めたんだよね。

馬場:私も誘ってもらって、一緒に自由大学の講義を受けたことを覚えているよ。あの時の祐子ちゃん、とっても生き生きしていたね。

佐々木:自由大学の受講生には、おもしろい経験値と幅広い分野の知識を持つ人たちがたくさんいて、とても刺激的だった。

馬場:でも一方で、他の受講生と自分を比較してしまうことはなかった?

佐々木:正直、初めのうちは落ち込んだよ。私は想いはあっても、行動に移すための経験も知識もないから、もどかしいし、劣等感もあった。でも最終的には本音で悩みや葛藤を共有できる仲間と出会えたし、フリーランスや副業、独立といった、新しい生き方や働き方を知ることができて、本当に良かったと思ってる。

馬場:ゲストハウスを開業できたのは、彼らとの出会いがあったからなんだね。

佐々木:うん。ゲストハウスのデザインをしてくれたのも当時の仲間で、いまでも繋がりは続いているんだ。彼らはいつも私に新たな気づきを与えてくれる存在。

ゲストハウス「ひととき」の内装

馬場:素敵な関係性だね。ところで当時、東京に仲間がいたにも関わらず、福島県に戻ってゲストハウスを始めようと思ったのはどうしてなの?

佐々木:震災を機に「地元・福島県で何かをしたい」と思うようになっていたの。震災発生から時間が経つにつれて、福島への興味関心が薄れていってしまうのではという課題意識があって、ゲストハウスのように気軽に人が集まって、泊まることで福島を定点観測し続けるような場所があったらいいなと思って。

馬場:西会津町を選んだ理由は?

佐々木:「TURNS」という移住をテーマにしている情報誌で、西会津町が「アート×町おこし」というテーマで取り上げられているのを見て興味を持ったの。実際に足を運んでみて「新しく何かを生み出せそうな場所かも」って思えたから、この町でチャレンジすることに。

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西会津国際芸術村(筆者撮影)

馬場:アートに関心があって、新たなチャレンジを決意していた祐子ちゃんには、ぴったりな土地だったんだね。活動する上で、何か意識していることはある?

佐々木:いきなり大きなことを成し遂げようとせず、少しずつでも確実に行動することを意識してるかな。週末にゲストを呼んで一緒にカフェを運営したり、イベントを開催したり。地域の人も「いつも面白いことやってるね~」って、集落が賑わっていることを喜んでくれていて、嬉しいんだ。

馬場:今後の取り組みについて何か考えていることはある?

佐々木:新型コロナの影響で「ひととき」を休業した期間、改めて「自分が本当にやりたいことは何だろう?」って自分自身と向き合ったんだよね。それで「私は0から物事を生み出すことは好きだけど、継続するのが苦手」ということに気づいたの。だから、いまは私からの発案に限らず、他の誰かのやりたいことを発掘して、常に新しい物事が生まれるような環境を作っていこうかなと。例えば、「ひととき」で1日店長として、「好きなこと」や「得意なこと」にチャレンジできる場を提供していけたら面白そうだなって。

たとえ小さな一歩でも、
前進した自分を認めてあげよう

馬場:東京で働いていた頃といまの自分を比べて、何か変化は感じる?

佐々木:うん、随分と生きやすくなったよ。「等身大の自分のままでここにいていいんだ」って思えるようになった。

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馬場:そう思えたのはどうしてだろう?

佐々木:地域の人たちにありのままの自分を受け入れてもらえて、西会津町を居場所だと思えたからかな。あとは、いい意味で自我に対して諦めがついたというか、「どうしようもないことはある」って思えるようになったのかも。田舎での暮らしのなかで、例えば農作業とかはどんなに準備をしていても毎年気候に左右されていくし、自分の力だけではできないこともたくさんあるからかな。

馬場:ようやく「自分は何者かになれるはず」という期待から、解放されたんだね。

佐々木:そうだね。放っとくと畑は荒れていくし、朝からお客さんは沢山来るし()、やることはたくさんあるけれど、心から毎日が楽しいと思えているよ。

馬場:確かにこのインタビュー中もいろんな人が来ていて、忙しそうだったね()。では最後に、私の働くリヴァでは「自分らしく生きるためのインフラをつくる」というビジョンの実現を目指しているんだけど。「社会的に認められた『なにか』であらねばならない」という思いに囚われて苦しんでいる方に、祐子ちゃんならどんなアドバイスをする?

佐々木:いきなり大きな成果を得ようとせずに「できることから少しずつ取り組むこと」を勧めたいし、「できた自分」に目を向けることを大事にしてほしいな。それに、生き方に正解はないから、「回り道をしてもいいんだよ!」って伝えたい。私自身、短期間で転職を繰り返していて、一般的にはあまりよく思われないのかもしれないけど、全ての経験があったからこそ、いま納得した人生を歩めているからね。

馬場:自分を認めてあげるって大切なことだよね。これからも祐子ちゃんのチャレンジを応援しているよ。今日は話を聞かせてくれてありがとう!

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この記事を書いた人
菅野 智佐 株式会社リヴァ 2018年度入社

1996年福島県生まれ。山形大学を卒業後、新卒社員としてリヴァへ入社。「リヴァと関わったことで、自分らしい生き方について考えられた」という人を増やしたいと、リヴァマガの運営管理に携わっている。

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