人的資本経営から解く、社員を活かし愛される会社の作り方|L-BASEイベントレポート

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企業が成長するためには、社員一人ひとりが生き生きと働ける環境が必要です。

しかし、社員の能力を十分に引き出せなかったり、働きがいを感じられずに休職や退職に至るケースが多い中で、これをどのように実現するかが大きな課題となっています。

より多くの企業と共創しながらこうした課題と向き合うべく、株式会社リヴァは社員の幸福を追求しながら、企業の成長も実現する『人的資本経営』というキーワードに着目しました。

その具体的な方法を探求するために、2024年5月28日、「スタッフを活かす『愛される会社』を作る~人的資本経営を推進するヒントを探求する~」をテーマに、人事や経営者向けのイベントを開催。

本記事では、各方面の専門家が登壇し、人的資本経営の重要性とその具体的な実践方法について議論された当日の様子をお伝えします。

当日は25名の方にご参加いただきました

沼本和輝

経済産業省近畿経済産業局

1990年兵庫県生まれ。2014年より経済産業省近畿経済産業局で勤務。

関西を中心に中堅・中小企業にインタビューをおこない、社員の幸せと会社の成長の両立を目指す「人的資本経営」の解像度向上と、実践企業の拡大を目指し「BE THE LOVED COMPANY」プロジェクトなどに取り組んでいる。

野﨑卓朗

三菱ケミカル株式会社 産業医

2008年産業医科大学卒業後、2010年より産業医科大学卒後修練過程を経て、現職。

産業医科大学産業精神保健学研究室非常勤助教、労働衛生コンサルタント(保健衛生)働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト『こころの耳』委員会作業部会委員長、合同会社活躍研究所代表などを務めている。

但馬武

エンゲージメントコンサルタント/fascinate株式会社代表取締役社長

パタゴニア日本支社にてダイレクトマーケティング部門統括を中心に19年勤務。2017年より地域活性化を展開するエーゼロ株式会社を経て、一般社団法人RELEASEに参画。

2018年に愛される企業「LOVABLE COMPANY」のためのブランド戦略を構築するfascinate株式会社を創業。ファンを作りファンと歩むブランドへの変容を顧客及びスタッフエンゲージメントの観点から組織づくり、事業構想、マーケティング戦略づくりに伴走型で支援している。

伊藤崇

株式会社リヴァ 代表取締役

大手SI企業で勤務後、株式会社ウイングル(現株式会社LITALICO)に転職。組織づくりへの関心から2010年8月にリヴァを設立し、現在に至る。

左から、但馬氏・野﨑氏・沼本氏・伊藤。

社員一人ひとりの幸せを重視する『人的資本経営』が、組織の成長の原動力になる

まず初めに、経済産業省近畿経済産業局の沼本氏が登壇。『愛される企業が生み出すイキイキするスタッフの好循環』をテーマに講演がありました。

経済産業省近畿経済産業局では、社員の幸せと会社の成長の両立を目指す『人的資本経営』の解像度向上と、実践企業の拡大を目指し『BE THE LOVED COMPANY』プロジェクトに取り組んでいます。

その一環として令和4年より、人的資本経営を実践している中堅・中小企業45社にインタビュー調査を行い、経営の目的や組織づくりの特徴について分析をしました。

『人的資本経営』先進企業の共通点とは

調査結果を踏まえた、企業の共通点は以下3つでした。

  • 中長期的な視点をもって着実にビジネスを実行しつつ、未来への投資に挑戦し続けながら、付加価値を生み出していること
  • 経営の目的を『企業が関わるすべての人の幸福』と捉え、成長の果実をしっかりと還元していること
  • 中でも、会社の価値をつくり、社会との接点たる『社員』を何より大切にし、継続的な投資をしていること

 

人的資本経営の効果については「回答を得られた30社のうち、売上や営業利益が伸びた会社が約8割、社員が増えた会社が約6割、離職率が下がった会社が約8割など、あらゆる観点で成長が見込まれた」とのこと。

調査対象の30社から聞いた、人的資本経営によって表れた効果(※スライドより抜粋)

もちろん、効果についてはすぐに期待できるものではなく「多くの企業が5年以上かけて成長している」と、じっくり腰を据えて取り組む必要性が語られました。

『社員の幸せ』を願う、企業のユニークな取り組み

人的資本経営を実践する4社のユニークな取り組みも紹介されました。

企業名 取り組み内容
木村石鹸工業株式会社

<自己申告型給与制度を導入>

社員自身が1年以内に予定しているチャレンジ内容と、欲しい給与を申告する「自己申告型給与制度」を取り入れている。

天彦産業株式会社

<業務も社内活動も価値は同じ>

社内イベントの企画や、社内報の作成など、働く環境をより良くしていく活動も評価対象に加えている。

株式会社シンコーメタリコン

<月1回の育休出勤を導入>

育休明けの社会復帰に対する不安を取り除くため、休業中も月1回出勤する「育休出勤」を設ける。導入後、女性の復職率が20%から100%に向上した。

兵庫ベンダ工業株式会社

<業務連動型仕出し弁当を提供>

社員が働いて表れた業績を分かりやすく見える化し、モチベーション向上に繋げるため、「業績連動型仕出し弁当」を昼食時に支給している。

 

「人的資本経営を行うために、賃上げを行ったり、休暇を取りやすくしたりすることはもちろん、何より社員が自分らしく働ける環境を作ることが大事だ」と話す沼本氏。

社内で感じた違和感を相談できる心理的安全性があること、挑戦したいと思ったときにその機会を得られることなど、環境づくりと仕組みづくりの両輪が人的資本経営を実践するカギになると語りました。

 

▼BE THE LOVED COMPANYプロジェクトの詳細は、以下のレポートをご覧ください。

https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/lc/lovedcompany.html

メンタルヘルス不調になった従業員が、当たり前に活躍する会社づくり

企業におけるメンタルヘルス支援の仕組み構築に取り組む野﨑氏からは、『職場復帰の現場から考える、愛し愛される関係づくり』をテーマに講演がありました。

野﨑氏は三菱ケミカル株式会社の産業医として、弊社法人向けリワークサービス『リヴァBiz』の導入を主導いただいたことから、今回登壇いただくことになりました。

就業制限はかけない。活躍を支援する、新たな職場復帰支援のカタチ。

三菱ケミカル株式会社では、メンタルヘルス不調から職場復帰をした社員の就業継続率を集計しています。リワークを活用している社員は、活用していない社員に比べて1年後の就業継続率が高いことが分かったそうです。

※リワークとは、「Re-Work(再び働く)」を意味しており、うつ病などの精神面の不調からある程度まで回復したメンタルヘルス不調者を対象に、職場・社会復帰を目指すプログラムのことです。

リワーク等利用有無による1年後の就業継続率の違い ※野﨑氏の発表資料を元に、筆者作成

また「復職後の就業制限をかけていないことが就業継続率向上に繋がっている」と話す野﨑氏。一般的には、職場復帰支援として復職前に勤務時間や日数を短縮した、リハビリ勤務制度が設けられていることが多いと思います。

しかし、野﨑氏は「本人も含め上司や人事担当者等の関係者が『復帰後も安定就業できる』と判断し、就業制限等が不要な状態で復帰してもらっている」と話します。

具体的には復職後、短時間勤務ではなくフルタイムで働くことができ、残業や出張も制限されていないのだとか。

上述のような、野﨑氏が実践する『活躍支援型メンタルヘルス対策』は、適切な準備をして、他の従業員と同じ条件で復帰し、本人が持つ力を十分に発揮できるようにする職場復帰支援であり、従来の『配慮型メンタルヘルス対策』とは異なる考え方を持っています。

配慮型と活躍支援型の違い ※引用元:合同会社活躍研究所Webページ(https://kyri.co.jp/services/)

なお、野﨑氏は代表を務める合同会社活躍研究所を通じて、活躍支援型メンタルヘルス対策を広める取り組みを行っています。

メンタルヘルス不調を防ぐカギは『原因』だけではなく、『解釈』にもあり

そもそも、なぜメンタルヘルス不調は生じてしまうのでしょうか。野﨑氏は、「ストレスの原因をどう解釈するかによって、不調の発生のしやすさは変わる」と話します。

「経営方針の転換や組織の改変など、会社は日々変化しています。その中で、社内で発生するメンタルヘルス不調の原因をコントロールすることは困難です。しかし、原因に対して社員本人がどう向き合うかは、自身でコントロールすることができるはず。

メンタルヘルス不調が生じる流れ ※野﨑氏の発表資料を元に、筆者作成

そのため、メンタルヘルス不調者の支援においては、復帰後に活躍する可能性を信じ、必要であればストレスの原因に対する解釈や本人の価値観に本人自身が気づく手助けをすることが重要なのだとか。

その解釈に至った理由を社員に話してもらうことで、異なる解釈ができることに気づいてもらうことがポイントです。そのうえで、自力でストレスを軽減することができれば、自信をもって働き続けることができます。」

上述を踏まえて、「社員の価値観を理解し、強みを見つけ、本人の活躍する可能性を信じることが重要である」と、野﨑氏は力強く語りました。

 

▼野﨑氏が代表を務める合同会社活躍研究所の詳細は、以下のサイトからご覧ください。

https://kyri.co.jp/

トークセッション~スタッフを活かす、愛される会社づくりとは?~

沼本氏と野﨑氏の講演後、ファシリテーターの但馬氏と、本イベント主催である弊社代表の伊藤を交え、『スタッフを活かす愛される会社を作るには?』というテーマでトークセッションを行いました。

ここでは、当日取り上げた3つのテーマをご紹介します。

投影されていたトークテーマ一覧

テーマ:社員の家族も大切にする会社づくり

伊藤:この間の休日L-BASEに社員とその家族を招いて、食事会をしたんですよ。

30人ほど参加して、うち6,7人は子どもだったのですが、一緒に遊んで仲を深めている光景を見て、とても幸せな気持ちになりました。

こういう場があると家族を含めて、社内で一体感が生まれますよね。お互いの家族の顔が浮かぶ中で働くことで、育児や家族の病気などで仕事を休む必要となった際に、他の社員も寛容に受け入れ、協力し勤務をしてもらえるイメージが湧きますし。

L-BASEでの食事会の様子

 

 

沼本:先ほど紹介した天彦産業さんにも、『家族感謝デー』という、社員の家族を会社招いておこなうイベントがあります。屋台を出したり、山車を引いたりと、土日を使ってお祭りを開いているそうで。

また、年度初めに社員に、子どもの行事がいつあるかを聞いて、休暇を取るように促す取り組みも。運動会や卒業式など、社内の年間カレンダーに載せることで、各社員の稼働が難しい日が分かるようになっていて、各社員の負担が軽減できるよう早期に業務量の調整することに役立っているみたいです。

テーマ:経営者も社員も自身の弱さを受け入れる

但馬:経営者や社員が弱みを出せないという話を、いろいろな組織で聞きます。

「しっかりと振る舞うべきだ」といった先入観を持った経営者や、「男性は弱みを見せずに働くべきだ」「社会人なのだからこうあらねば」という思い込みを持った社員で構成された会社で働くのは、ストレスですよね。

社員を活かす愛される会社を作るために、経営者も社員も自身の弱さや直面している困難と向き合い、仲間に助けを求められることや、そのための環境づくりが大事だと考えています。

 

野﨑:私も、弱さをオープンにしていくほうが生きやすいと思っています。弱さを見せたほうが、他者から愛してもらえる気がしますね。

さらに弱さを他者に補ってもらえると、自分の負担を減らしながら相手に感謝ができるし、補完してくれている他者も「人の役に立てた」と感じることができる。

仲間意識が生まれ、お互いを大切にし合える組織が作れるのではないでしょうか。

 

沼本:弱みを受け入れられる組織を作る上で、社員の強みを可視化することも大事だと思っています。

とある会社では社員の強みを可視化し、それぞれ5段階の数値に表して、カードを作っていて。

チームを発足させる際は、そのカードに基づいてバランスを考慮してメンバーを決めるなど役に立っているようです。

テーマ:アンコンシャスバイアスを認識した経営

※アンコンシャスバイアスとは「本人が気づいていない、偏ったものの見方」を指します。

 

野﨑:経営者が物事をどのように解釈しているか、すなわち自身の偏見の傾向をつかむことは自社の軸を自覚することにもつながります。

そうすることで、他社の動向や世間の風潮を理解しつつも、揺さぶられることなく、自社が大切にしている価値観をベースにして、社員を活かす愛される会社を作ることができるのではないでしょうか。

 

伊藤:「スタッフを活かす愛される会社を作る」というテーマから少し脱線しますが、リヴァトレなど弊社のサービスの利用者も、自身のアンコンシャスバイアスを認識することで、メンタルヘルス不調から回復するきっかけを得ていると考えています。

例えば、サービスの利用希望者がリヴァトレの見学や体験に初めて来た際に、他の利用者がグループワークで活発に動いている様子を見て「(利用者ではなく)社員がいっぱいいますね」と驚くことがあるんですよ。

「うつ病などの精神疾患の方が集まる場所は暗い雰囲気だ」というアンコンシャスバイアスを利用希望者が持っているからです。

利用希望者や使い始めて間もない方が、リヴァトレの利用者の様子を見て、実際にサービスを利用する過程で「社員に見えるほど活動的な人でも精神疾患を抱えてしまうなら、自身が精神を病むことも不思議なことではない」と、自身が病気であることを受け入れやすくなるそうです。これがメンタルヘルス不調から回復するきっかけの一つとなるそうですね。

トークセッションの後には懇親会が開催され、自由にお話しいただいたのちに、会は終了となりました。

参加者の声

    • 同じ方向に共感している専門家が、それぞれの切り口でお話しくださり、とても勉強になりました。
  • 具体的な事例やデータをもとにした比較などテーマに対する解像度が非常に上がった時間でした!
  • 人材確保課題に対して、社内議論では出てこないアイデアや考え方に触れる良い機会となりました。

主催が語る、L-BASEでのイベントの想い

本イベント終了後に、主催の伊藤にイベント開催の経緯や、今後予定している企画について聞きました。

 

伊藤:人事や経営者同士は、会社の規模や属する業界が異なっていても、組織に関して抱える悩みは共通しています。どうすればより良い組織を作れるかを共に学び、考え、実践できるようなコミュニティを作りたいと思い、そのキックオフとして本イベントを開きました。

誰もが自分らしく生きる社会づくりに向けて、会社や組織作りという観点から共創できる仲間を増やしていきたいです。

今後の経営者や人事向けのイベントについては、都度、L-BASEのWebサイトで告知をするので、ぜひご覧ください。

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この記事を書いた人
涌井 陽 株式会社リヴァ

株式会社リヴァ 2022年度入社
1998年生まれ。早稲田大学文学部を卒業後、新卒でリヴァへ入社。LIVA MAGAのライターを担いながら、採用や経理業務に従事。好きなことは旅行やコーヒー、カメラ。

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